2013年10月23日水曜日

【映画】トランス

 
絵画を探すため、失った記憶の中へ。取り戻したはずの記憶には、大切な“その先”があった。白昼のオークション会場から、ゴヤの「魔女たちの飛翔」が盗まれた。40億円の名画を奪ったのは、ギャングたちと手を組んだ競売人(オークショナー)のサイモン。なぜか計画とは違う行動に出たサイモンは、ギャングのリーダーに殴られる。その衝撃で、サイモンの頭から絵画の隠し場所の記憶が消えてしまった。催眠治療(トランス)で記憶を取り戻させようと、催眠療法士を雇うリーダー。だが、サイモンの記憶には、いくつもの異なるストーリーが存在し、深く探れば探るほど、関わる者たちを危険な領域へと引きずり込んでいく。そしてその先には、サイモンでさえ予想もつかなかった〈真相〉が待ち受けていた。

名作トレインスポッティング、アカデミー賞受賞のスラムドッグ$ミリオネアなど名作ばかり生み出し最近だとロンドン五輪の開催式の演出をするなど模範的な監督の道を歩んできたダニーボイルが久々に原点に戻ったかのような印象を受けた。
おそらく絵画を見つけ出すサスペンスアクション!みたいなダヴィンチコードノリで観た客は拍子抜けしただろう。なんだこの糞つまんねえ頭痛がする映画は、と。この映画の主題は、絵画を探すことはあくまで伏線として出しかなく、脳の真髄にある分子レベルの記憶という宝を現代臨床医学により盗みだすという極めてミニマムかつ超進化的なボイル節全開サスペンス。ボイルと言えば映像センスと音楽の融合においては右に出るものはいないほど巧みで、テンポ、構成、盛り上げなどにおいては娯楽としての映画の極致にあると言って過言ではない。もちろん黒澤明はじめコッポラ、スピルバーグ御大と並べるつもりはないがあくまで娯楽産業としての映画においての話だ。

ここまで聞くと2013年最高の映画なのでは?と思われるだろうが要所要所に理解するのに脳のしわをミイラレベルに寄せないと分からないような展開があり娯楽としての映画と言えど、観終わった後の徒労感あふれるぐったり感は否めない。敵が撃ち殺されて死んだかと思えば夢か...みたいな展開が何度もあり、捻りに捻ったラストシーンに到達してもまた夢か...みたいな世にも奇妙な物語を思わせる落ち着かなさがあるが故、観終わってもモヤモヤが晴れない。
しかも落ちに至ってはな、なんだってー!!というわけでもないし、オチに繋がるヒントがあそこの毛だったりと、これはすでに最強絶叫計画のパロディに到達してしまっているのか?とトランス状態に陥った。

内容に分かりにくいという問題があろうともアンダーワールドのリックスミスの楽曲でカバーされているがゆえに観ていて苦痛になることはない。エミリーサンデーとコラボった曲まであるくらいだから。http://youtu.be/gzM8IdOwwTg


なぜ劇中で盗まれる絵画がゴヤの「魔女たちの飛翔」なのかは謎だが、おそらくゴヤの光の使い方、ふんわりとしたバロック調の色彩がボイルの光使いにマッチしたのだろう。確かにカラヴァッヂオでは重すぎるしゴッホではありきたりすぎる。かといってゴヤの藁人形遊びとかでもバカっぽいし。
おそらく、魔女たちの飛翔の中で魔女とは知恵でありエリザベスであり、人間の男は耳をふさぎ布をかぶって逃げている。捕まった男はその身を委ねてふんわりと浮いている。捕まった男は今まで騙された男で、下でエリザベスから逃げているのはサイモンとフランクを表しているのだろう。

バカっぽい藁人形遊び
個人的にはデューラーとかが盗まれてたら燃えるのだが。
 
 
最高にかっこいいのは間違いない。まるで斬新なPVを観ているかのような。メロウかつエッジの効いた全体に降りかかる光彩。そしてゴヤをはじめとするカラヴァッジオ、ゴッホの色彩美。どんな裏があるのか、オチはどうなるのかということを終始考えて見てしまう。我々はつい誰が悪者で誰がヒーローだったとオチをつけたくなる。だからこそ見終わった後、なんとも言えないわだかまりが残り、もう一度観てみようと思わせる。
今作中の夢か現実かわからないシナリオが終わったあと誰しもが、これは夢か?ともやもやするであろう。それこそがダニーボイルが望んだ我々をトランスさせるという真のエンディングだったのだ。
 
 
追伸
脳天をブチ抜かれたフランクは完全にコンスタンティンのあいつだった