2014年1月31日金曜日

【映画】オンリーゴッド





アメリカを追われたジュリアンは、今はタイのバンコクでボクシング・クラブを経営しているが、実は裏で麻薬の密売に関わっていた。そんなある日、兄のビリーが、若き売春婦を殺した罪で惨殺される。巨大な犯罪組織を取り仕切る母のクリスタルは、溺愛する息子ビリーの死を聞きアメリカから駆け付けると、怒りのあまりジュリアンに復讐を命じるのだった。復讐を果たそうとするジュリアンたちの前に、元警官で今は裏社会を取り仕切っている謎の男チャンが立ちはだかる。そして、壮絶な日々が幕を開ける―


映画のキーワードは二極、手、LSD、ジェラシー、懺悔。

まず主人公のジュリアンはファイティングポーズをした銅像の前で拳を握る。この頃はまだ何の問題もなくただボクシングクラブと麻薬の密売をしていればよかった。しかし兄が死んだ瞬間から雲行きが怪しくなる。いつものように縛られ娼婦の自慰を眺めることによって快楽を得ていた彼は、ふと自身の持病でもある病的な妄想にふける。それは彼のテリトリーである赤の側から、部屋を出て(娼婦は諦めたような顔)廊下をくだり、チャンの領域である青のテリトリーに足を踏み入れる。そして真っ暗な部屋に手を伸ばした瞬間、彼は腕を切り落とされる。その後彼が洗面台で手を洗っていると怪我もしていないはずが血だらけになる。その時の洗面所も青色。彼は病的な妄想癖であったが、それは同時に警告でもあった。ジュリアンは静かでどこか物哀しげな顔をしている。しかし兄は対極に暴力的でアクティブだったのだろうが無鉄砲さが仇となり殺される。弟は母が兄を選んだことにジェラシーを感じ、母に認められようという思いで麻薬の売買をし母の償いもする。しかしそれは彼にとってそれは背徳感と嫉妬を原動力にした無駄なことだと分かっていた。初めてチャンとジュリアンが対峙する時、ジュリアンは焦りを感じる。今までどおりにうまくいかず何かが起きることをいち早く察知していた。彼をつけ回し、突然消え去り、また拳で勝負を挑んでもボコボコにされ無力であることを思い知らされる。チャンがタイというテリトリーでは絶対であり、それに逆らうものは消される。それまでの絶対は母親であったが、彼自身それには疑問を抱いていた。むしろ自らを去勢するような縛りさえも感じていた。このタイの掟をジュリアンは察知し、いつしかの妄想で見た警告通り、腕を切り落とすという行為によってその掟に従い、ジュリアンは命は助かった。


この映画はアレハンドロ・ホドロフスキー監督に捧げるとエンドロールに挿入されている。アレハンドロ・ホドロフスキー監督といえばエルトポだが、正直エルトポには到底追いつきまい。しかしエルトポやサンタサングレ、ホーリーマウンテンにあるような、なんか意味分かんないけどヤバそうな雰囲気を出すということに関しては成功している。といってもまだまだ安直だが、タイ語を使う、背中から突然中国の処刑用の刀が出てくる、まっちょの男がストリップしてる、顔面やけど男の一刀両断をガキに見せつけるなど、シーンごとに持つパワーを最大限に発揮し、全体を通して筋が通っていなかったり面白くなくても強烈な印象を残す。この面ではアレハンドロ・ホドロフスキー監督に捧げることができているだろう
どのシーンに関してもキャラクターの配置や光加減、バランス、構図は絵になるものばかりでビジュアルアートでは満点を送りたい。屋台で食事する警官たちをウージーで襲撃するシーン、獅子のネオンの前でタイマンするシーン。チャンの家で子供の帰宅を待つジュリアンの構図のバランス。また音響芸術の面でも、船の轟のようなノイズを使ったり、悪い予感を察知したチャンの心境を表すような不協和音、格闘のシーンでのシンセ/テクノ、チャンのカラオケ(笑)。


レフン監督はオンリーゴッドについてLSDとしドライヴはコカインと表した。どっかのどいつが残念ながらこれはLSDをやりながら見る映画だから!監督もそう言ってるから!みたいなことをぬかしていたが直接的なことではない。ドライヴがハイになりアドレナリンが出て引き込まれるようなコカイン的である映画に対して、現実の解釈が変容し幻覚を見て、感覚が研ぎ澄まされる瞑想状態に陥るアシッドであるという例えだ。そういう感覚を味わいたければ何もこの映画を見ながらLSDをやらなくていいし、やらずともそういった状態に陥る用に作られているのだから我々はそれを純粋に楽しめばいい。


チャンのカラオケについて。制裁を下すごとにチャンは部下を集めて熱唱するのだが、どこか儀式的なオーラを感じる。全部で三回歌うのだがこれがかなりシュールな上に地味にうまい。娼婦のおじきの腕を切り落とした後の曲目は復讐の歌(マイル~マイル~\カン!/)、自分を殺そうとしたジュリアンの手先を一刀両断したあとの曲目は人と人の統合の歌、ジュリアンの腕を切り落とした後のエンドクレジットとともにお別れする曲は恋に落ちる歌。まあそれぞれ意味ありげではあるがどうでもいい。あそこは笑うシーンなのだから。上司が熱唱してるのを死んだような顔で見る部下たち。監督は不思議な雰囲気を出したかったと言ってるがどう見ても帰りたいのに無理やり付き合わされて明日の心配しだしてる部下たちと全然気づかないタモリにしか見えない。


オンリーゴッドで評価したいのはクリスタル役のクリスティンスコットトーマス。昆虫界の女王みたいな支配者かつ近親相姦、ド下ネタ連発で紹介した彼女をドン引かせるというグレートビッチマザー。



2014年1月15日水曜日

【映画】インシディアス 第二章






ソウの監督ジェームスワンとリーワネル、パラノーマルアクティビティの製作チームがタッグを組んだいわばアメリカで最強のホラーキャストが本気を出したインシディアスの続編。前作ではダースモールみたいなデビルがライトセーバーを振らずに一家を脅かすという内容で全米でかなりの興行収入を得たが続編はいかに。

ヒットしたホラー作品はほぼ100パーセント続編が作られるのが世の常だがほぼ100パーセント失敗に終わる。REC、パラノーマルアクティビティ、リング等々。正直前半はああこれ失敗したやつだと感じたが後半にかけて伏線回収や前作とリンクさせる部分などがあり、必ずしも失敗ではなかったのかもしれない。ただジャパホラのような何が何だかわからない得体の知れないものがじわじわと迫ってくるような恐怖は相変わらず単細胞脳筋アメリカ人には描けないようだ。
また名作といわれるホラーの良いところを集めてまとめた感も否めない。例えば冥界へ繋がる赤い扉やとりつかれて妻子を追いかけてドアを消火栓でぶち破る父のシーンなんかは、シャイニングの血があふれだす真っ赤なエレベーターと完全に気が狂ったジャックニコルソンだし(ぶち破った時におコンバンハ!って言ってたら満点だった)、悪霊のバックグラウンドが母親に吹き込まれて女装して女を惨殺しまくるパーカーという男っていう設定の時点で完全にヒッチコックのサイコだし(実際母親はミイラっぽいビジュアル)、途中なんかもホラー界の名作吸血鬼ナイトオブザリビングデッドエクソシストなどオマージュというかほぼまんまやんなシークエンスが山のよう。それも一番山の部分ばっか持ってきたばかりに、結局平坦で何だこれ??な流れになってしまっている。
振り返ると突然花嫁の恰好した死体がぞろっと並んでるシーンは、会場の皆さん結構ビクってしてたけど、CONDEMNED2というPS3ゲームの一部分。ちなみにこれは結構名作。嫌々プレイしてたのはいい思い出。
またサイレントヒルなんかも感じられるシーンもありあげたらきりがない。


もうひとつジャパホラに及ばない点が、悪霊の描写がガサツすぎる。今回は白塗りの婆と婆の若かれし頃とその息子(女装癖)が悪霊なのだが、首を絞めるのはいいとして、ビンタで現世の人間を吹っ飛ばして気絶させる。お前はマンオブスティールのゾッド将軍かといいたくなるくらいパワフル。肉ばっか食って銃っぶっ放してりゃあああいう思想になるのも無理はないと思うがいくらなんでもアグレッシブすぎ。いつ目から光線出すのかハラハラしてしまった

良かった点はまず前作とのリンクがあったことと前半の伏線回収。あー確かにこんなシーンあったわ!と懐かしい気持ちにさせてくれる。ピアノ、ノック、ジョシュのインタビュービデオ等。
あと登場人物がみんな馬鹿。良い感じにみんなドンくさいが不思議と誰も死なない。
そしてちょくちょく写る意図的じゃない感出した心霊シーン。何気ない会話のシーンだったり廊下を歩いてる時に一瞬映ってたりして遊び心がある。

総合的に見れば名作をまとめただけなので他のホラーを一切見たことがないという人には新鮮で楽しめるかもしれない。

2014年1月5日日曜日

【映画】LAギャングストーリー



1949年のロサンゼルスを舞台に、ギャングと警察官の抗争を描いたクライムアクション。ドラッグや銃器取引、売春で得た金を使い、警察や政治家をも意のままに操る大物ギャングのミッキー・コーエンは、自らを「神」と豪語し、ロサンゼルスを支配する。しかし、そんなコーエンを打ち破るべく、6人の警察官が立ち上がる。警察当局は一切の責任を負わないという命がけの任務に就いた6人は、警察官という素性も名前も隠し、コーエン率いるギャング組織へ戦いを挑む。



いろんな映画のオマージュを感じる。仲間を集めていき腕利きのガンマンやメキシコ人、ちょっと扱いにくい若造やおじさんなどメンバーが揃っていく経過は荒野の用心棒でしかないし、黒人警官が情報屋を追いかけポルノ撮影現場に落下するところはダーティハリーと全く同じ。また全体的に名作アンタッチャブルを匂わせる。
ストーリーややり方は真新しいことなんて一切なく、今までどおりのやり方でド直球だ。しかし50年代ロサンゼルスの繁栄と影、クールで皮肉なセリフ、見ごたえのあるシーンがあるおかげでなんてシンプルで面白い映画なんだと感じるようになっている。
一番思ったのはすごくゲーム的であるということ。それもロックスターの作るようなキャラクターここに味があって、またキャラクター一人一人にストーリーがあり、アイテムやロケーションに妥協がない。(実際ロックスターが作った50年代がテーマのゲームは失敗だったのだが)


ジョシュブローリンの渋い熱血漢デカっぽさも良かったし、ショーンペンの悪役もドはまりで間違いないと感じた。ライアンゴスリングも相変わらずマイペースクールキャラでドライヴがもし50年代だったら的なノリ。エマストーンの青い目との赤いドレスのマッチングもナイス。

かっこいい男っていうのはこういうところなんじゃないかと感じさせる一品。

ロサンゼルスいきてー