2014年10月4日土曜日

【映画】ファーナス 訣別の朝






リドリースコット御大並びにディカプリオが製作、スコットクーパー監督、クリスチャンベール、ウディハレルソン、フォレストウィテカー、ウィレムデフォーとメンツ集めるだけで莫大なバジェットがかかってそうな今作。自分の降り立ったことのある地、ペンシルベニアということもあって期待値を高めにして見た。
舞台はペンシルベニアのブラドック。鉄鋼業が盛んな街で、街自体は廃れ、アメリカ内部特有の陰気な田舎町だ。そこで金使いの荒い弟と直向きに鉄鋼業を続ける兄。しかしある日サイドブレーキを踏み忘れた車が道路にはみ出しており、たまたま酒を飲んで車を運転していた兄ラッセルはその車に衝突し、不幸にも中にいた子供を殺してしまう。実直に働き弟の世話までしていた兄は牢屋に入ってしまい、父の最期を看取ることが出来ず、嫁には出て行かれ、弟はイラク帰りで頭がおかしくなっている。すべては失われた。しかもそのタイミングで弟が金を返すためにファイトクラブ的な賭けをしていると知る。さらには悪党に捕まった疑惑。警察は何もしてくれない。弟がファイトクラブを始めたのも、イラク帰りの兵士に何もしてくれない、国は俺らに何もしてはくれないという理由だった。
兄ラッセルは教会で祈る。まるですべてを失った旧約聖書のヨブかのように。そしてラッセルは復讐に燃える。これまでの映画なら悪党を追い詰め、最後には許すだろう。しかしファーナスは違う。


これはとある田舎町の話ではない。
アメリカ全土の話だ。アメリカ中でこのような苦悩が湧き起っている。
普段我々が目にするきらびやかなアメリカはほんの小さなひと塊で、アメリカのほとんどはクソ田舎と低所得者で溢れかえっている。オバマに就任する番組が流れていることから2008年なのだろう。ブッシュの的外れなイラク派遣で多くのアメリカ人兵士が犠牲になり、無事帰還した兵士もまともに職に就けず、また国もそれに対してケアしなかった。おまけに国民皆保険は無く怪我や病気はできず、自分の身は自分で守らなければならないという意識がアメリカ人には強くある。そのためどの家にもライフルやピストル、ガンマニアに至っては戦争に行くのかってぐらいでかい機関銃を持ってるやつもいる。
また内部には厳格なクリスチャンが多い。ブッシュが当選したのは内部のキリスト教原理主義を味方につけたからだと言われている。それくらい内部の力は強い。だからどこに行っても教会があるし毎週日曜は絶対に教会に集まる。
そしてクソ田舎では警察の目はそこまで厳しくないため自家製のメス(メタンフェタミン)が多く悪党を増やす。昨今ではブレイキングバッドというドラマがアメリカで大ヒットしたが、それに近い状況がアメリカ中にある。上層階級の夫婦がある日夫に先立たれ、今の暮らしのレベルを下げたくないがために風邪薬からメタンフェタミンを抽出して売買していた未亡人がいたなんてケースも事実ある。

そんなアメリカのリアルな苦悩を凝縮しリドリー御大特有の重苦しいやるせなさと張りつめた弦のような緊張感で今作は二時間続く。


冒頭でこれまでの復讐劇なら悪党を殺さず許すが今作は違うと述べたが、ラストラッセルは悪党の頭をぶち抜く。初めは撃っちゃうのか....と何とも腑に落ちない感じだったが、今思えば、何もしちゃあくれない国に対して中指を立て、自分のことは自分でするというメッセージを込めたヘッドショットだったのかもしれない。弟が成し得なかったことを最後まで兄はケアしたのだ。



クリスチャンベールが自分が持っているgoodwearのTシャツを着ていてわかってるな~コイツぅって思った。