2015年4月23日木曜日

【映画】インヒアレントヴァイス



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戦後世界は貧しさを極めており、とにかく経済回復が最善の策であった。

かつて日本の高度成長期がそうであったように、アメリカでも環境を省みず、経済成長だけを目指していた時期があった。1960年代後半から1970年代にかけ、生産性と利便性を追い求め、めまぐるしく経済が発展していく中で、大気汚染や廃棄物不法処理など、かつての負の遺産をなんとか償却しようと、様々な環境対策が進められている。

さらにはそこにベトナム戦争が入り混じることで政府は環境や平和なんて後回しという考え方になっていく。

それらに反発するようにヒッピーが台頭してきたし、貧しくて怒りが多い時代だからこそ芸術が華々しく栄えていった。映画で言うならばゴッドファーザーやスターウォーズ、タクシードライバーに燃えよドラゴン。音楽でいえばファンクやジャズ。ROCKに関しては黄金期と言われACDCにディープパープルやブラックサバスと今のロックの基礎になったバンドが多い。建築に関してはカリフォルニアストラクチャーが有名だし(その後の住宅バブル崩壊でその価値は一瞬ゼロになるが)、アンディウォーホル等アートも有名なものが多い。ファッションもカルチャーも70年代は最高に面白い時代だと思う。


 

あらすじ


ビーチ沿いにある私立探偵ドックの家に、昔の彼女のシャスタが今までとは違う身なりで現れ、今の彼氏(不動産業の大物ミッキー・ウルフマン)をはめようとしてる妻と愛人の相談に来る。叔母のリートに電話したドックは、ウルフマンがどれだけヤバイ人物かを知る。最新のプロジェクトが、低所得者層居住区での郊外型住宅地〈チャンネル・ヴュー・エステイツ〉の開発だとか。テレビをつけると、ロス市警ビョルンセン警部補がヒッピーの恰好をして〈チェンネル・ヴュー〉の宣伝をしていた。この刑事とドックとは腐れ縁で永年いびられてきた。クリックすると新しいウィンドウで開きます
 翌朝ドックは自分の事務所に行くと、タリク・カーリルという黒人過激派の男が待っていた。ム所仲間で白人極右集団〈アーリンアン・ブラザーフッド〉に所属するグレン・チャーロックの居所をつきとめてくれ、という依頼。ウルフマン身辺警備は、このバイカーギャングが当たっている
 〈チェンネル・ヴュー〉の建設地に向かうドック。敷地内にある〈チック・プラネッツ〉のマッサージ嬢でアジア系のジェイドと話した後、奥へ進むとドックはいきなり何者かに殴られ失神した。気がつくとロス市警の〝ビッグフット〟ビョルンセンがいる。大袈裟なくらいの警察。隣には死体。死体はグレン・チャーロック。殺しの嫌疑をかけれらたドックは、弁護士ソンチョを呼び弁解する。ビョルンセンはドックから捜査のネタを仕入れられると踏んで彼を釈放する。
 ドックの事務所に若い女から電話がある。会いにいくとホープ・ハーリンゲンというカリフォルニア・ブロンドの女性で、サクソフォン吹きで、ザ・ボーズのメンバーだった夫のコーイについて調べてくれとの依頼。ヘロイン禍で死んだことになっているが、どうも死んだとは思えないという。
ヤクをやりながら乳をやった娘の奇形具合を見たドックの反応が最高。
変装したドックがウルフマン邸を訪問。妻のスローンと不倫相手の筋肉もりもりの金髪男リッグズと話す。ミッキーのベッドルームのクローゼットを探る地、そこには自分の女たちの裸体を描き込んだネクタイが多数吊してあった。女中のルスに送られて外に出ると、ビョルンセン刑事もやってきていた。
 ドックがいま付きあっている女性が地方検事補のペニー・キンボル。ランチに誘われ、オフィスまで送っていくとFBI捜査官のふたりが待っていた。ユダヤ人不動産業者ミッキーの失踪、黒人過激派と取り引きのあったグレンの抹殺、ヘロイン中毒者コーイの神隠しの一連の事件には、どうやらニクソン政権下の連邦の手も伸びているらしい。
司法省の船で調査してきたソンチョがドックの家にやってきて言うには、高級スクーナー船〈黄金の牙〉号が浮かんでいた海域から引き揚げられた陸軍のコンテナから、大量のドル札が発見された。それは「ニクソン」の顔が刷られた、北爆と同時にベトナムで捲かれたという代物である。夕刻、ペニーの家でドックがテレビを見ていると、右翼の団体である〈カリフォルニアの光る目〉の大会がニクソンが挨拶をして、それを口汚く野次るヒッピーの姿が大写しになる。ペニーはその男を検察への情報提供者〝チャッキー〟として認識するが、それはまさしく死んだはずのコーイ・ハーリゲンだった。当局はメディアとつるんで、ヒッピーの評判を貶める目的でコーイを利用していたのか。
 因みに、数ヶ月前のシャロン・テート惨殺事件では、チャーリー・マンソンとビーチボーイズのメンバーに接近していたことが知られている。コーイもザ・ボーズのメンバー。ドックは、彼らの住む屋敷へ向かう。そこで鉢合わせしたジェイドに聞いてみると、案の状コーイがいて、サックスの練習をしたいた。
 サンセットでプレイしているのいるコーイを見つけたドックは話し込んで真相を聞き出す。
〈黄金の牙〉は船の名でもあるが、歯科医ブラットノイドが、アジア系のザンドラを受付嬢にして営んでいる診療所の名でもある。ドックが訪ねていくと、昔家出事件を担当した富豪令嬢のジャポニカがやってくる。彼女はドクター・ブラットノイドが激しく熱を上げたお相手だったが、精神はかなり失調状態で、両親のきまぐれから〈クリスキロドン〉(ギリシャ語で「金の牙」の意)というニューエイジ風の施設に入れられた経歴を持つ。ドックはその施設へ向かう。そこにはコーイ・ハーリンゲンがいた。看守のひとりは、ここに収容されたミッキー・ウルフマンからもらったのだろう、シャスタのヌードを描いたネクタイをいじっていた 





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ドックは意味を求める煙たい捜査を始める
しかし明確な答えは出ない。

なんだよ、誰がどうなったのかよくわかんねえじゃん!そう思うだろう
我々はいつだって意味や結論、答えを求める。
今だって君は答えを求めてるだろう?
答えはもちろんある。しかしそれは煙の中だ。

そしてそれこそが不条理なのだ。
不条理な世界へようこそ。
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具体的に言えばあの時代隠された事実は山のようにあった。暴かれたものはウォーターゲート事件くらいである。ケネディを暗殺した意図は?暗殺したのはフリーメイソン?月面着陸は嘘?あの映像を作ったのはキューブリック?なぜ不動産バブルがあそこまで加速したのか?UFOの存在を隠してる?黒人自衛団体ブラックパンサーをFBIはどうやって調べていたのか?謎は今になっても尽きることはない。
不条理だと感じたのなら監督の意図通りだ。あの時代、いやこの世は不条理で溢れかえっていて、俺たちの力じゃどうすることだってできない。葉っぱ燃やして、幻覚を見ることだけが現実を直視できる唯一の方法なのだ。


まずたまらんシーンが多すぎる。チョコバナナをなめなめするジョシュブローリンだったり、完全にスーパーマリオブラザーズなドックとソンチョのコンビ、アートでゆるいカリフォルニアを象徴するカット、キイチローパネケイク、最後の晩餐(ピザ)な反社会組織、、、


でも全体的に無駄が多いと感じたのはたしか。クリックすると新しいウィンドウで開きます

 

主人公の名前はドックなのだが(あだ名)what’s up Doc?というセリフは正直よく聞く。一番初めはスペースジャムでバックスバニーが発する“どったのセンセ”。あとは映画シャイニングで黒人の管理人がカートゥーンの真似をしたとき。あとはデトロイトヒップホップグループのサイプレスヒルの曲の中のサウンドエフェクト。おそらくどれもバックスバニーなのだろうけどちゃんとした元ネタが知りたいところだ。



見終わった後二日酔いのような、あるいはマリワナ後の胸焼けのような錯覚を味わうこと必須。
大衆にオススメはしない。

2015年4月11日土曜日

【映画】バードマン  あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)





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ジャズ界の鬼才アントニオサンチェスのテクニカルなドラミングで映画は幕を開ける。
カーヴァーの一節を、ドラミングに合わせてパラパラとセンテンスを出していく。おしゃれだな、NY的、モダンだ、なんて思った瞬間、隕石のCG,そして海岸にあげられたクラゲたち。なんだこれは。




あらすじ
昔はバードマンなんてヒーロー映画で何億も稼いですっかり俳優面してきたリーガンおじさんが完全に自分プロデュースの演劇を始めるも周りはゴミッカスばかりで、自分は幻聴が使えるし(ほんとはただの厨二病)娘も愛人もわけわかんないし、なんて考えてたらだんだん周りも自分もわかんなくなってきてーズドン。な話。





バードマンはアカデミー賞作品賞を受賞した。イニャリトゥ監督の描く人間の葛藤とどん底は正直あまり好きではなかったが(21gではクソみたいな気分になり、バベルは飽きて寝てしまった)、どうやらバードマンは別らしい。ワンカットで繰り広げられる役者たちの演技のようで演技ではないリアルな叫びを、ブラックに、ユーモラスに、一瞬も気を抜けずに最後まで続き、完全にのめりこんでしまった。
撮影はゼログラビティのエマニュエルベルツキ。どうりでといった感じ。あの息苦しい長回しをさらに長くしたんだからさすがとしか言えない。ここでカットしてんだろうな〜なんてのをなんとなく感じるも基本的に全部繋がって見えるから相当な苦労をして撮ったのを感じ取れる。
全体としてキャストもテーマも安定していて間違いないと思う。
ただ日本の宣伝は相変わらずどうかと思う。金しか見えてない何とも胡散臭いPVで、お前は本当にバードマンを見た上でこの予告を作ってんのか?と問いたくなる。なぜならバードマンは安直な金稼ぎのエンターテイメントに今一度疑問を投げかけるメタフィクション的(直接言わずにあえてフィクションにして客観性を出している)ブラックコメディだからだ。
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おそらく今後多くの人がレビューするだろうし誰が見ても分かる部分は割愛して自分なりの考察を述べたい。






クラゲ
まず冒頭にフラッシュバックのようなサブリミナルのような短く映し出されたクラゲについて考える。
誰だかのレビューでバードはクラゲを食べます。だからいわばそういう意味ですとかいうわけ分からんことを言っていたが、

jélly・fìsh



[名](複~, ~・es)
1 《動物》腔こう腸動物;クラゲ.
2 ((略式))煮えきらない人, いくじなし, 根性なし.

まあ2でしょう。Fishが胡散臭いとかlemonがセコハン(中古)とか英語は結構違う意味が多いので覚えるとこういう時役に立つ。
別の意味を考えてみる。
一つは妻に語るシーンでクラゲが体中にまとわりつき痛くて転げまわったら赤くはれたけど日に焼けたと嘘をついたというシーン(エドワードノートン扮するマイクは能動的に日焼けマシーンで日焼けしている)からすると、クラゲは自分にまとわりつくプライドやレッテル、偏見、凝り固まった考えなのかとも取れる。
二つ目は冒頭、隕石が落ちてくる。なんでこのタイミングで隕石が?途中サムが薬物依存から抜け出すために通っていた学校でやっていたトイレットペーパーに地球の歴史を書き出すというシーンがある(マリファナをして怒鳴り散らした時もやっていた)。クラゲは太古の昔から生きている。キチガイホームレスが時間について説教をしている。ドラミングもどこか太鼓を現すイメージだ。
これらを前提に、なぜイニャリトゥがこのシーンを混ぜたかったのか?と考える。万物は太古の昔から生きていて偉大であるのに我々はなぜいつまでもくだらないことで葛藤し死のうとしているのか?なんてスケールのでかい話とも取れる。あるいは自分は神だなんて言い出すリーガンをちっぽけに見せるエッセンスとも取れるし、あるいは変化に適応しないリーガン(周りの人、所謂サムはSNSを使っているし、マイクは変化を楽しんでいる)を進化しない生物として絶滅を表すというシークエンスなのかとも考える。これについては多くの意見があるだろう。



超人(鳥人)
途中空を飛んだりものを超能力で動かしたりするのは、途中のタクシー運転手のセリフで分かるように自身の妄想だと分かる。(なぜか超能力が使える&幻聴が聞こえるのが絶対に日中なのは何か理由が?)
ただそのバードマンの幻聴はどういった意図があるのか。
おそらくバードマンは素直な自分なのだろう。凝り固まったプライドと偏見で(twitterやらないとかカーヴァーなんて古臭いものにこだわるとかいかにもおじさんらしい)視野が狭くなってるおっさんがバードマンの意見を無視し続けたが、いざ自分に素直になってみたら意外とことがうまく進んだなんて意味が含まれてるんじゃないかと読み取る。だから最後鼻を吹き飛ばしたリーガン自身がバードマンになっていて、便所にいたバードマンはなにも言わなかったのでは?と考える。


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ラストシーン
病室から飛び降りたリーガンはどうなったのか?サムはなぜ上を見て微笑んでいたのか?これは見る人によって様々な解釈ができると思うが、自分なりにいくつか考えてみた。
Ⅰ.本当に飛び降りていて(救急車の音が聞こえる)リーガンは死んだ。サムは薬物依存で同じく          幻覚が見えているor現実逃避した
Ⅱ.リーガンはバードマンになり本当に宙に浮いてしまった
Ⅲ.実は銃で撃った時にすでに死んでいて(テレビの映像が回復を祈っているというよりは死を悼んでいる点、評論家がべた褒めしている点)、病室のシーンはリーガンの想像、理想であったという考え
Ⅳ.宙に浮いてるかのように見せたのは意訳的な表現で、またみんなが見上げるような(リーガンが見下げるような)存在に戻ったという考え

どれが間違いとかはおそらくないが好きな解釈ができるラストだったと思う。



まやかし
最後壇上にいるはずのない路上アーティストやマーチングバンドがスローモーションで映される。あの時うつっているのはみんなエンターテイナーであり、人々を楽しませる人間たちだ。リアル主義のマイクやリーガンも、プライドのないナオミワッツ(役名を忘れた)もそう。みんなまやかしである。だからなんだって話だが、おそらく舞台裏と劇場でガラッと顔が変わったりみんな裏では全然きらびやかじゃなく、あの壇上で繰り広げられてる時間だけがきらびやかでそれはまやかしだよっていみなのでは。ナオミワッツといえばリンチのマルホランドドライブがまさにこれなわけだが、泣き女が泣きわめき、メキシコ人のトランペット奏者が録音のショウを終えると胡散臭い支配人がこれはまやかしですと言って、ナオミワッツの理想(妄想)が崩れ現実にたたき戻される。あるいは同じくリンチのインランドエンパイアでは、映画と現実がごっちゃになって、意味不明な展開になる。バードマンの世界に面白さを見いだせたのであればぜひこの二作品を見ることをお勧めする。ちなみにナオミワッツはマルホランドでもレズビアンになる。


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パンツ一丁でNYを歩くマイケルキートンはすごくアイコニックで痺れたし、怒鳴り散らすエマストーンのおぞましい剣幕とか、エドワードノートンのイラっとする自信家っぷりなんてのも一見の価値があるし、全体を通してとてもよく構成された映画である。ティムバートン版バットマンをやって一度は有名になったものの、そっからあんまり目立った作品がなかったマイケルキートンも、インクレディブルハルクやってアベンジャーズは降ろされたエドワードノートンも、アメスパでヒロインやるもあんま目立たなかったエマストーンも、仕事を選ばないで定評あるナオミワッツも、それぞれがリアルで抱えてる悩みとかうっぷんとか葛藤を全部ぶちまける感じが、ドラミングが如くガンガン伝わってきて、俳優って大変だろうけどいいなあなんておもったりしましたまる。