2016年1月20日水曜日

【映画】It Follows









生き物は何億分の一という天文学的な確率でこの世に産まれ、死という避けては通れない必然に対し、もがきながらそれぞれの人生を歩む。


しかし残念なことに、あるいはラッキーなことに、死は不可視なものであり、突発的なものでもある。

ならば死が見えるものだったのならどうだろうか?


本作ではセックスをすると”何か”がついてくるようになる。

違うと誰かと性交しなければ”何か”は延々と追いかけてくる。

口にしてはならない怖い話として有名な鹿島さんに酷似しているのは否めない。→鹿島さん


主人公ジェイは偶然出会ったイケメンとカーセックスとしてから”それ”に追いかけられるようになってしまう。




仲介する媒体がセックスというだけで、ビデオテープとか一時期流行った5人に回さないと死ぬチェンメとか、基本は清水監督のリングともベースは同じだ。

アメリカ映画には珍しく、セックス中にスローモーションで彼氏の頭が粉々に吹っ飛んだり、ラテックス素材のクリーチャーがダッシュで追いかけてくるみたいな安直な表現は一切無い。
ただまっすぐと主人公の元へ”それ”は近づいてくる。
至極日本的なホラーだ。


本作は初めて片手で数えられるくらい少ない劇場で公開されたが、何がテーマなのかわからないと若者の間で話題になり、あのタランティーノまで熱中させるまでに至った。確かにタランティーノが好きそうなアイテムの数々と無駄なセリフの連続。さらには監督に自分の感想とダメ出しまで送った始末。

タランティーノほどの大物にダメ出しを貰えば普通はへいへいとへり下るものだが、この監督、自分のメッセージとタランティーノの認識齟齬が許せなかったのか反論したのだ。
しかしその反論が素晴らしく、この映画を理解する上で重要なキーワードとなる言葉を漏らす。


http://defamer.gawker.com/a-conversation-about-it-follows-2015s-first-must-see-h-1691215470


死をテーマにしているという事であれば、様々な箇所でのつじつまが合う。

死を遠ざけるために無駄なセックスをしたり、死と立ち向かうために本物の愛を育む。


自分にとって本作はが重要なアイテムだと感じた。


に関しては意図的に注目させようと映していると感じた箇所が幾度となくあったのだが、どんな意味があるかは監督は公言していない。

思うにイケイケの彼氏を手に入れてカーセックスをした主人公が事後にぺんぺん草みたいなのをさするシーンはまだ無垢な少女を表し、腕を骨折してギブスをはめている手は傷付いてがむしゃらになっている主人公を現し、ポールと繋いだ手は死に立ち向かう強さを表すのではないかと思料。正直手とか表情とかはどうとでも取れるし、どのように感じ取るかは個人の自由だろう。

については初め浮かんでいたプールは最後には水が抜かれていたり、それを沈めたのもプール、冒頭の少女が波打ち際で死ぬなど何かしらの意味がありそうだ。日本の幽霊が水場に現れるのを意識してるーというのも考えられる。



内容やメッセージ性は勿論の事、カメラワークとガジェットのこだわりも尋常じゃない。

貝殻型の読書デバイス(これは存在しないらしい)、あえてブラウン管のテレビ、70年代的なヨレヨレフォトTシャツ、玄関先でババ抜きなど、胸が懐かしい気分になる絶妙なチョイス。



アメリカの超一般的なあるあるな田舎町をチョイスしたのも大衆の心をつかむエッセンスだったのだろう。アメリカにはああいう寂れた町がごまんとある。




この作品を機に監督はハリウッドに引き抜かれたようで、今後の作品にも期待が高まる。

今度はこんな曲がりに曲がったラブストーリーではなくこだわりぬいたヒューマンドラマを観てみたい。