最近売れに売れまくっているトムハーディ。6月に公開されたマッドマックスを皮切りに、このオンザハイウェイ(原題:Locke)、ゲイリーオールドマンと共演したチャイルド44、双子を一人で演じるギャング映画the LEGENDと方々から引っ張りだこだ。
私もトムハーディの演技はとても好きで、ブロンソン、ダークナイトライジング、ドロップなどハマり役が多い。しゃがれ声で洞穴から響いてくるような声と困った犬みたいな表情がなんとも良い。
今回のオンザハイウェイは映るのはトムハーディのみ。ただひたすら高速を走るだけの画が86分続く。初めは退屈で死にそうになるのかと思ったが一時間半は一瞬だった。それは私がトムハーディ信者故に感じたわけではない。純粋に映画として魅せられた。限られた環境と素材の中で演技の幅を存分に見せつけたトムハーディに今一度惚れ直す。喜怒哀楽に翻弄されるトムハーディはまさに現代に生きる<クラウン>だ。
映画の製作費は1500万ドルとかなり低予算。まあ拘束を走るだけなので金がかかるはずもない。しかし米映画評価サイトRotten Tomatoでは評価90%越えと何とも高い評価である。
アンダーザスキンの恐怖(評論家評がよく期待して見に行ったらスカヨハの乳に対する評価が高かっただけだった2014年最大の災い)の二の舞かと思ったが90パーセント越えは納得。
あらすじ
建設工事の現場監督を務めるアイヴァン・ロック(トム・ハーディ)は夜のハイウェイで車を走らせている。妻カトリーナとの間には二人の子供に恵まれ、仕事のキャリアも評価され、翌日には大きなプロジェクトを控えている。仕事もプライベートも充実した、順風満帆な生活を送っていた。
そこへ一本の電話がかかってくる。その電話は彼に人生の全てを賭ける大きな決断を迫るのだった。
夜のハイウェイはなんとも言えないノスタルジーと魅惑に溢れていると思う。何台もの車が交差するにもかかわらず互いに無干渉で、無機質で孤独だ。同じ行き先に向かっているはずなのに冷酷なまでに交わることはない。
ハイウェイは人生を表してるように見えた。
トムハーディの信念を貫くという直線を表しているのだと。飲んだくれの父親の遺伝子を過剰なまでに拒否するトムハーディはそれに反発した人生をこれまで送ってきた。努力と選択によりある程度の地位を獲得した。しかし一度の過ちが父との距離を縮めてしまう。嫌悪感を露わにするトムハーディはプライドと意地でその状況をもがき苦しむ。しかしハイウェイを進むBMWは次第にチョイスを迫る。まるで走り出すと後戻りのできない人生のように。ミラー越しに変化するトムハーディの表情、電話になると途端に声が変わる二面性にこの映画内を超えたおぞましさを感じ取れる。
誰々が何をした~というような説明描写は一切無いが会話で容易に読み取ることができるし行動と表情が嫌になる程こちらに状況を理解させる。クラクションを鳴らされてもぼーっと信号を眺め、思い立ったかと思えばナビと逆を行く。<home>との決別だということが後で分かる。
上司の名前をバスタードにしているのも良い。父親がバスタードだったはずなのに嫁からバスタードと言われ父親と自分が重なり腹がたつ。自業自得と一言でまとめてしまえば早い話だがそれでは面白くない。人間の本質的な気質。それは男女の思考回路であったり(感情論と理論)、上司と部下の言い分であったり、あー分かる分かると86分トムハーディに感情移入させられた。しかし見事に電話の相手がウザく描かれてる。同じ事を何度も言うな。行動を起こせ。いいから俺の話を聞け。何度もかけてくるな。キレるのもわかる。
この映画から感じ取るものはおそらく個人個人で異なると思う。我々もまたハイウェイに乗っている一個人であるが、選択を受け入れるか、妥協するか、プライドを貫くか、FUCK!!と叫びハンドルを叩く事もあるだろう。しかし全ては個人の選択からなる。それが喪失の連鎖になるかは誰もわからない。
途中部下にあんた完全にイカれてるよ(insaneではなくMAD)と言われていて、マッドマックスのオマージュかな?と思ってしまった。
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