2012年12月6日木曜日

【映画】ダージリン急行



父を亡くして以来分裂してしまった三兄弟がインドでの旅を通して再び団結する話。
あらすじとしてはそれだけで充分なくらい簡素なものだけど、内容は濃い。別に誰も死なないし、大どんでん返しもないし、実は父さん生きてた的なB級オチもない。なにをしたってわけではない。添加物と油で誤魔化したファーストフードがハリウッド映画だとしたら、この映画は出汁を充分にとったお吸い物と言ったところか。
まず各々のキャラが濃い。このストーリーは一貫して誰も笑わず、ろくな冗談も言わず、相当シュール。しかもあまり喋らない。三兄弟意外も無口な車掌さんやらチョイ役のナタリーポートマンなど、面白いキャラクターがたくさん。
それぞれが持ち味があって、それが存分に魅力を放出している。

次にカメラワーク。もはやアート作品なんじゃないかと錯覚するような美しい撮り方。独特な視点で、独特な間を見事に作り上げている。緩やかに流れる時間を優しく静かに映す。
帰国を辞めてインドにとどまる事を決心するシーンは会話はないしカメラはスライドするだけだが、それだけで十分過ぎる程伝わってくる。
そしてそのカメラワークを引き立たせるのがインド独自の鮮やかな配色。青やピンク、白が画面にこれでもかと散りばめられていて目の癒しに。
謎めいた複雑な教訓が含まれてるわけでもなく、頭をフル回転させて考えさせられる映画でもないのに、観た後になんだかすごい映画を観たという気にさせる。

最後に母を出会い、言葉を交わさずにこれまでを振り返るシーンがある。ナタリーポートマンは相変わらずホテルで楊枝をくわえ、ダージリン急行の車掌は殺したはずのヘビを飼ってたり、電車に乗り遅れた男は無事何時間後かの電車に乗れてインドを満喫している。この瞬間にも彼らは彼らの人生を歩んでいて、その人生は一つの電車にゆられて。どのような生き方をしても、進んで行くしかないのだと、言葉なくして三人は感じ取る。とても心に響くいいシーンだった。
無駄なシーンを極限までカットし、間と空間が観客に物語を考えさせる事に見事成功している。映画とはドキュメントでない限り言葉はいらない。娯楽でしかないのだから感じ方は受け手の自由だ。それを体現した心の癒しとなる文字通りいい映画。

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