ウェスアンダーソン監督のムーンライズキングダム鑑賞。
世間では絶賛されてる一方で何が面白いの?、それが?みたいな意見も結構あり二極化しているようだ。無理もない。なぜなら意味なんてないからだ。意味と言ったらプチ・ノアの箱舟の再来?みたいなもんか。
かつての映画産業で考えれば映画は絶大な力が働き金が動くものであった。例えば黒人奴隷解放宣言がなされた後でいえば、KKKがプロパガンダとして映画を利用していた。ハリウッドがユダヤ人によるものなのだから仕方がない。映画には隠れたメッセージや社会批判、後に起こりうる損害を危惧するものが一般的であり、年寄りを黒人が送り迎えするだけのようなゆるゆるストーリーは稀であった。しかし時代が変わればニーズも変わる。危険を危惧し続ける者もいれば、物事をどこか遠くでパイプでもふかしながら座ってみているかのようなものも出てくる。ムーンライズキングダムはちょうどそんなところだ。
舞台は1960年代のニューイングランド島。ボーイスカウトに所属する、ちょっと周りとは違う若い少年と、学校では問題児とされている難しいお年頃の少女が逃避行を企て、それを保安官と少女の両親が、はては島全体が巻き込まれていく。ダージリン急行と同じくあらすじはこんなもんで十分すぎる。ウェスアンダーソンの魅力はどう考えてもストーリーではなく空気感と絵本のような鮮やかさにある。
シーンごとに色が決まっているようで前半は黄色がメイン(ボーイスカウト)、中盤は緑(森)、後半は黒(嵐)。カメラワークも健在で横スクロールやらPOVなどモノの見方が面白い。特に好きなのは二人が駆け落ちしたのがわかり、皆で捜索しキャットフードを見つけるシーン。横スクロールで各々がそれぞれ違ったことをしていて、まるで絵本を見ているかのようでわくわくする。
たかだかこども二人が駆け落ちしたからって別にそんな遠くにいくわけじゃないし大丈夫だろ、とたかをくくる大人。しかし心の底では自分たちもバツの悪い思いをしていた。彼らもまた不倫をしており、誰にもバレていないと思っていた。だからこそ見捨てられないし必死に探す。
ちなみに警部役にブルースウィルスが出ている。彼はあまり仕事を選ばないのか、あるいはワーカホリックなのか、少なくとも重火器をぶっ放すだけの脳筋役者ではないらしい。どっかのスタローンと違って。しかもすげえいいおじさん役だ。最初ブルースウィルスじゃなくてもよかったんじゃないかと考えたが、仮にショーンペンだったらシリアスなサスペンスみたいになっていたし、ジャックニコルソンだったら多分役を全部持ってっちゃってサム君のインパクトがなくなるだろう。ちょうどよかったのかもしれない。
主人公のサムくんも今回が映画デビューとは思えない、子供が大人ぶってるマセガキ演技でとてもよかった。今後もウェスアンダーソンに呼ばれるだろう。大抵こういう役は表情豊かだったり、キュートな子が多いのだが、彼はスタンドバイミーの例の保守的マセガキ彷彿とさせる。しかしスタンドバイミーとちがってかわいらしい。基本的に表情はない。
女の子のほうも今回が初映画らしく大人らしいエマワトソンのような子だった。しかしカメラアングルといい表情といいラナデルレイにしか見えなかったのはナイショ。クリソツ。言うならばカナブンのピアスはよく似合っていた。
加えていうのであればファッションや小物に細かい部分にまで手がこんでいた。レコードプレイヤーではなくトイプレイヤーでソノシートを聞く子供たちやサムのかわいらしいアライグマのファッション、赤い三階建てのオサレなおうち、少女が読む魔法の本、僕が大好きなファイアキング、警部の60年らしいファッション、そして物語の語り手となる聴覚班のおじいちゃんのファッション。60年代アメリカンなアイテムがたくさん出てくる。今流行ってるしちょうどいいね。
SFやら火薬が好きな人、どんでん返しやスプラッタが映画における肝と考える人にはまずお勧めできないけど、それらすべてが大好きな私でも楽しめたしこれはこれと考えて観れる人にはぜひ見てほしい。忙しい毎日に追われ美しいものに触れていない現代人、少し立ち止まってどこかの国の誰かのおかしな日常を覗いてみては??
0 件のコメント:
コメントを投稿