2013年2月28日木曜日

【映画】時計じかけのオレンジ






遠い昔父親は私に名作という名作を片っ端から見せた。パリテキサス、波止場、ゴッドファーザー、カサブランカ、、、、。時計じかけのオレンジもその一つだった。正直それらを見るには私は若すぎた。どれも映像として頭の側面にへばりついているだけで、全く内容なんて覚えていない。覚えているのは唯一エイリアンくらいだ。あれは内容なんかないからな。HRギーガーのチ〇コってだけだ。
そんなことはどうでもいい。10年ぶりくらいに観た時計じかけのオレンジは非常に面白かった!

「世の中、キチガイです」というストレートなニーチェ哲学を、何の甘言も美称も用いずにありのままに描写した映画。
短縮して書くならバイオレンスアーティスティック。暴力の中にある美しさを存分に描いている。
これを見て感動したならば非人道的だ。しかし楽観するには完成されすぎている。私は圧倒された。ただそれだけに尽きる。
正直すごすぎて的確な言葉が見つからない。かれこれ一月は考えてるがまとまった答えが出ない。いうなればこの映画で描いている未来とは当時での未来でありバイオレンスは今でいう明日である。
楽観すべきか悲観すべきか。オプティミストはこの映画をどう見るのか。評価されるべきであって評価されてはならない。そういう意味でボラットに近い。


劇中アレックスが洗脳されるルドビコ心理療法。SF的ではあるがノンフィクションになりつつある。
ルドビコ心理療法と呼ばれる洗脳実験の内実は、眼球に覚醒剤を注入した状態で、バイオレンスと集団レイプの映像を被験者に集中的に見せることによって、それらに対する拒絶反応を示す人格改造の方略である。これによりアレックスは暴力やセックスに対して内在的に拒絶する。被験者は悪への傾斜をパラドックスとして善に傾く。暴力行為への衝動が、強烈な肉体的苦痛を伴う。ある意味で731部隊の人体実験よりもおぞましい。外傷としても残らず永遠に続くのだ。
ここで問題となるのはチョイスだ。ルドビコ心理療法の根底にあるのは聖書における原罪。生まれ持って負いそれを罪と認識するもの。しかし我々は罪を背負いながらもそれを生かす場合や悔い改める場合、さまざまなチョイスをする権利がある。しかしこの療法においては一方的で高圧的なものであり、そのやり方は神に反する(むろん映画の中の話ではあるが)。非行は防げても、道徳的選択の能力を奪われた生き物に過ぎない。これは劇中の神父のセリフであるがまさに見た目は自由であっても拘束器具でガチガチに固められているのと何ら変わりはない。

本作の基本モチーフは、「表面的には健全で完全だが、その内部は自己統制の及ばない反動のメカニズムのせいで廃人同様となった人間」、それこそがクロックワークオレンジなのだ。


私が思うに人間の有史以来、人間の「暴力」が消失した時代が存在しないということはいうまでもないし、それは人間の内在的欲求に少なからずバイオレンスの欲求があるということだ。それは倫理的な観点で見れば間違いではあるが、太古の昔で考えれば、争うことによって我々は生きながらえることができてきた
。バイオレンスを悪と定義づけた瞬間からそれはただの規範にすぎず、客観的にみれば、一つの自由を失ったことにもなる。
仮に眠ることが悪となったとしよう。それに対して政府は対策を練り、著しく睡眠時間が長い人間は優先的に拘留し心理療法で眠ることに対して嫌悪感を示すよう暗示をかける。当然眠れなくなった被験者は気が狂い舌を噛んで死ぬことは目に見えている。もちろんバイオレンスが生きていく上で必要不可欠なものではないからこの例は適切とは言えないがおおざっぱにいえばそれほど驚異的なものだ。
刑法でも人殺しはダメなんて当たり前すぎて書いてないし、いまさら再考すべきことでもないが原点に立って考えるべきは、悪とは悪なのか?これが時計じかけのオレンジでのテーマなのではないか。

アレックスこそが暴力を具現化したかのような横暴っぷりを前半では描いていたが、その暴力に対して暴力で抑圧したのは言うまでもなく国家であり、後半ではそれが描かれている。
ラストシーンでアレックスは第九のメロディに耐えかねて窓から飛び降り命を断とうとする。それを知った政府はアレックスが目覚めるまでに暗示を解く。もちろんメディアからの批判を避けるためだ。それにより目覚めたアレックスは以前よりもより暴力的で獰猛なクリーチャーとなる。アレックス不敵な笑いを浮かべるとき、それは国家権力により操られた男のコメディな面とトラジディな面が含まれていると感じた。まさに暴力で暴力を洗う始末。


とにかく見ていない人はすぐレンタルでもアマゾンでもいいから手に入れて観てほしい。アイデンティティーとは、アートとは、バイオレンスとは、映画とは。すべてを考えさせる。


「完璧に治ったね」

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