https://www.youtube.com/watch?v=xuKwU5awmMM
平成生まれの我々20代、所謂「何か新しいもの」を求めて旧世紀の価値観のまま21世紀にやって来た私たちにとって戦争も経済も宗教も文化も道徳も、総て20世紀のお下がりであり、何一つとして「新しいもの」なんてなかった。
クリエイティブな思考はもはや無く二番煎じが通説であり、ゼロ年代以降のホラー産業は衰退の一途を辿るのみ。降霊、女優霊、リング、仄暗い水の底から、呪怨、らせん、とそれぞれあるテーマを元に日本の土着化された恐怖感を存分に引き出した作品がゼロ年代までに大量に生産され、ジャパホラ産業は一時はエクスプロイテーションかと思われるほど爆発的に業績を上げた。しかし情報飽和社会とあらゆるシステムの利便化により王道ホラースタイルでは味気なくなってしまった。その後POVがノイズでは無く新たな手法として認知され、映像の可能性は大きく広がったものの、大筋としては基本としてあるべきホラーの形にのっとった本質的には同じものの量産でしかなかった。
いずれにせよ目立ったジャパホラはもはや排出されず、海外のエログロナンセンスが先走った低俗な商業ホラーが市場では売れ、おぞましさを骨の芯まで感じさせる日本のホラーは衰退してしまったと認識していた。
過日のジャパニーズ・ホラー粗製濫造の狂騒の影で、リアリズムを追求したシネマヴェリテが如きホラー演出はとんと忘れられてしまったのだ。
しかし今回このアマのフィルムである”escape”ではこれまでのホラーの掟にあくまでも従いながら、尚且つ革新的な良作となっている。90年代後半以降のホラー映画の進捗を踏まえた上でそれを良く考証し、それらの良い部分を抽出して作品に加味したという意味で。
まずストーリーラインは王道のもので、まず何者かに追われ、その原因はわからず、主人公がテンパりながらも自分の砦に逃げ込み安心するも束の間、それが失敗であった、という流れになっている。短い尺であるため再現PVになりかねない。しかしこれはれっきとしたホラーフィルムなのだ。
これを観始めたときは「食人族」同様、「これから何が起こるんだ~」という心地よい動悸がして結構楽しかったのだが、あの感覚はヴィンチェンゾ・ナタリの「Elevated」とか「CUBE」とか、要するに超低予算のアイディア勝負の映画を観てるときのものに近い。低予算であればアイディアを限界まで捻り出し、金では実現できないような無限の高クオリティを輩出することができる。昨今では”クロニクル”がいい例だが金がかかったオールスター作品が良いとは限らない。人は貧困を極めた時、死を前にした時、絶望を直視した時本来持つ潜在的な力を存分に発揮する。
まだまだ役者の卵ではあるが大田優介の演技は近年ありがちな舞台役者的オーバーリアクションで安直な感動を与えるものとは対極に位置し、リアルな一般的な人間を見事演じている。人がパニックに陥った時どうなるか、見事な観察力と独特なオーラにより体現することに成功している。
また撮影、監督である田中大地はフィルモグラフィーは際立って目立つものは無いものの監督のメチエは他のボンクラと比較にならず、十分な可能性を持っているとこの短い尺で感じ取れた。アングルにはしつこいまでのこだわりを感じ、間を上手く使いこなす曲芸師である。基本的にホラーフィルムといえば展開は大体予想がつくが、一寸先は闇という言葉があえて当てはまる程先が全く見えないホラーに仕上がっている。
総合的に見て、量産型の呪いのビデオや本当に怖い~シリーズとは一線を画するクオリティと、異様な空気感を生み出したこのショートフィルムにジャパニーズホラーの未来を感じ取れた。
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