2012年11月22日木曜日

【映画】裏切りのサーカス





マルホランドドライブといい複雑な伏線が大量に張られた映画はなんとも好奇心を煽り、純粋に面白い。とはいえこれはリンチとは違い、芸術で完結しておらず、全て伏線が回収されるあたり名作を映画化しただけある。

東西冷戦下、イギリスとソ連の諜報機関、MI6(通称:サーカス)とKGBは水面下で様々な情報戦を繰り広げていた。

長年の作戦失敗や情報漏洩から、サーカスのリーダーであるコントロールは内部にKGBの二重スパイ「もぐら」がいることを確信。「もぐら」に関する情報源さと接触するため、ジム・プリドーをハンガリーに送り込むも作戦は失敗。責任をとってコントロールと彼の右腕であったジョージ・スマイリーは引退を余儀なくされる。

退職後ほどなくコントロールは死去。ほぼ同時期に実働部隊であるスカルプハンター(通称:首狩人)のリッキー・ターの元に「もぐら」の情報を持つKGBのイリーナが現れる。恋仲になった二人はイリーナをイギリスに亡命させるためロンドンのサーカス本部に連絡するが、一日後にイリーナは何故かKGBに発見され連れ去られてしまう。サーカス内部に「もぐら」がいることを思い知ったターはイギリスへ戻り、スマイリーに忠実であったため左遷されたターの上司ピーター・ギラムに報告。事態を重く見たギラムは政府の情報機関監視役であるオリバー・レイコンに連絡し、レイコンにより引退したスマイリーが「もぐら」探しを命じられることとなる。

「もぐら」と目されるのは4人の幹部。現サーカスのリーダーであるパーシー・アレリン、アレリンを傀儡とし実権を握っていると噂されるビル・ヘイドン、勇敢だが愚直なロイ・ブランド、日和見な性格のトビー・エスタヘイス。彼らは「もぐら」を探していたコントロールによってそれぞれ「ティンカー(鋳掛け屋)」(アレリン)、「テイラー(仕立屋)」(ヘイドン)、「ソルジャー(兵隊)」(ブランド)、「プアマン(貧乏人)」(エスタヘイス)とコードネームを付けられていた。またスマイリー自身もコントロールにより「ベガマン(乞食)」として候補に含まれていたことを知る。

4人の「もぐら」候補の過去、KGBの大物スパイであるカーラとスマイリーの関係、作戦の失敗で死んだとされるプリドー、スマイリーと妻アンの関係。情報を集め着実に真実に近付くスマイリーの前に現れる意外な「もぐら」の正体とは。


公式ホームページにも必読として本作のあらすじが掲載されている。必読と称しているあたり、この物語がいかに難解なストーリーかが伺われる。事実、一度で理解するのはかなり難しい。登場人物はコードネームに加えアダ名が付けられている。さらには東西が交互に出てくるので、IQの高さが求められる。実際私は英語が話せるチンパンジーレベルの脳なので解説を読み再び映画を見直すまで理解出来なかった。しかし今や映画公開から3ヶ月でDVD化される時代。何度も見て理解しろ、一度で理解出来たら良くできました!くらいの作り方だと見て感じた。全体的に無駄な部分をかなり端折っており、サーカスのチーフであるコントロールが死ぬシーンは2秒で終了した。(しかもグラスが落ちて割れるという表現のみ)
それだけ無駄を省かねばこのジョン・ル・カレの名作を映画化することは許されなかったのだと感じ取れる。
物語が複雑であるということは問題ではなく、むしろこちらを引き込むという点で大きくプラスとして働いている。

またこれは同じスパイ大作007と違い、危ないセクシー女優も出てこないし(イリーナはロシア訛りでとてもボンドガールとはいえない)、火薬とガソリンを大量に使った痛快な脳筋映画でもないため、役者の演技が試された。結果としてゲイリーオールドマン(ダークナイトのゴードン警部補)の演技は私が見てきた映画界の巨匠と比べてもダントツに世界に引き込む名演だったといえる。話し方や間の取り方、表情の微妙な違い、目線のやり方など、まるで当時の緊迫した暗雲の立ち込める冷戦下にいるかのような気にさせた。

またそれはゲイリーオールドマンに限らず、コリンファースのミステリアスなイメージやトムハーディの若く無鉄砲で純粋な役も見事巧みにこなしていた。爆薬やエロティック、バイオレンス、カーアクションなくしてここまで興奮させられたのは初めてかもしれない。
音楽や効果音にも優れていた。あくまで当時の流行りの曲や(ツイストやファンクなど)クラシックを使い、現代の要素を一切含まずその時代を楽しめた。効果音といえばゴッドファーザーのコルリオーネファミリー結成のためのレストランでの銃殺のシーンで電車の轟音がアルパチーノの心情を表していて感激したのだが、裏切りのサーカスにおいても同じ手法が取られている。選曲がいかに大事か、ここでハンスジマーでも使っていたらおかしなことになっていただろう。
そしてなによりスーツがかっこいい。サーカスのメンバー全員が彼ら独自の個性を表すスーツを着ていて、常人ではない特別な仕事をしている人間というオーラを醸していた。灰皿やファイルなど小物や小道具においても細部に至るまで当時を再現しているかつとてもオシャレで感心していたがあとで分かったことだが、オシャレ男子の金字塔ポールスミスが視覚に訴える部分で加担していたらしい。さすが金字塔。ストリートファッションと安いブランド古着しか着ない私の心が揺らぎかけた。こんなステルスマーケティングもあるのね。

ここまで長々と語り尽くして分かるとおり2012年最も見応えのある映画であったと言っても過言ではないし何度も観たくなるサスペンスだと思う。しいていうならば、特にグロテスクでもないし脳天をリボルバーでぶち抜いて壁に脳みそがへばりつくぐらいなんだからR15にする必要はないと思う。あるいはこれは15歳未満に見せると憧れるスパイキッズが大量生産されることをGAGAが恐れたか?

10/10点

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