2015年2月19日木曜日

【映画】フォックスキャッチャー







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マザコンかつ自分の思うがままに事を進めてきたスペック主義の不気味な鼻の御曹司と、周りに流されやすいタイプのパワー系筋肉ゴリラ(弟)と男性ホルモンに溢れてるテクニック系髭ラファロ(兄)の話。アメリカは強いという何かにしがみついていた今から30年前に、男たちがそれぞれ欠損した何かをカバーしあう話。







ロサンゼルス五輪で金メダルを取っても、子供達に講演して20ドル貰って(今よりは貨幣価値が高いだろうが)、安い車の中でジャンクフードに貪り付き、家に帰ってもゲームボーイして粗末な生活を過ごし、ソウル五輪に備えぼろいトレーニング場で熱心にトレーニングを重ねる主人公マーク。当時のレスラーはプロになる事は許されず、アマとプロの世界は完全に分かれており、また仕事もコーチぐらいしかないらしく、かなり苦しかったらしい。だがここまで扱いがひどいのは正直驚いた。

一方で兄デイヴは家族を持、ち田舎でコーチをやるなんていう安定した未来を持ち、また技術面でも弟より勝っていた。
自分は兄弟が居ないからその感覚は分からないが、兄弟間の妬み嫉妬は必ずやあるだろう。古くは旧約聖書にもあるように、カインとアベルは妬みが原因で人類で初めて殺人を犯した兄弟とされている。
そんな兄への妬みもあり、弟マークは突然舞い込んだビックビジネスに飛びつく。その胡散臭には何かしら気づいているようではあったが(世話人のよそよそしさなど)、金が入るなら構わないといった態度でデュポンの囲いに捕らわれる。


アメリカの三大財閥であるデュポン家の御曹司、ジョンデュポンは、母から強制されていた馬を嫌い一方でレスリングを愛した。ただそれは母には認められず、自身もレスリングを出来なかったことから、マークを金で所有してコーチという形で金メダルを取り、名目としては愛国心から強いアメリカを体現するとしていたが、結局は自己満足と母に認められるという二つの目標達成がメインであった。レスリングで金メダルを取り、野蛮な種目ではないとアピールする為に。

この三人に共通するのはそれぞれが欠損しているということ、また欠損している部分を補い合っているということだ。マークは両親の愛を受けず兄デイヴに頼って生きていた。だからこそ兄からの脱却、自立。兄デイヴは弟への無条件の愛を送りながらも弟から頼られたいという思い。デュポンは母に認められる為に金メダルの達成。このそれぞれの求めるものが合致すると思われたが、そのピースの形は当てはまらなかった。


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フォックスキャッチャーというタイトルの意味を考える。フォックスキャッチャーとは貴族が楽しむキツネ狩りのことだ。映画の冒頭でも荘厳なBGMと一緒に白黒のキツネ狩りの様子が映し出されていたが、その写真を見ると分かるように、馬に乗った貴族は何もしない。キツネを負うのは猟犬であり、キツネを狩るのは猟犬なのだ。そして狩った狐は貴族のものとなる。
この映画はいわばそういうことだ。大富豪の坊ちゃんが金メダルというキツネを二匹のムキムキの猟犬に狩らせる。


嫌な仕事を他者に任せるのはアメリカ人の気質なのだろうか。古くは大英帝国からプロテスタント達がアメリカ大陸に渡ってきて、アフリカ人にキツイ労働をさせた。カルタゴ人が自分たちの戦争のために傭兵を雇ったように、金さえあれば嫌な仕事を任せがちな所がある。だからこそWASPの城は今や崩れつつあるのかもしれない。
今でこそメキシコ人の労働者は多い。アメリカに旅すれば分かるが、トイレ清掃や工事現場など人が嫌がる仕事は基本的に白人がしている事はまず無い。




この映画のほとんどは静かでストレスなくらいの緊張感と重々しさである。なんで金を払ってそんなことをしなきゃいけないんだと思うかもしれないが、火薬とおっぱいばっかの脳筋映画を見つづけるとそういう人間になってしまう。
その今にも切れそうなピアノ線が如し緊張感を保っているのが、スティーブカレル演じるデュポンである。彼は生まれつき金があったために自身の欲求だけを満たし、自分のドキュメンタリーを作ってしまうようなクズだ。しかもめんどくさいことにひどく愛国者で、ミリタリーおたくという危なっかしい男である。


アメリカ人の血なのか内在するイデオロギーなのかはわからないが、レスリングやアメリカンフットボールのようなアメリカ発のスポーツを見ていると日本とは違う猛々しさを感じてしまう。それはおそらくアメリカ人が日本人のような農耕民族ではなく狩猟民族であり、それが未だ血にまじっているのだろう。






正直全編通して重々しい雰囲気が立ち込め、あまりすっきりしないラスト(間違った形のアメリカのヒーロー)を迎えもう一度みたいとはあまり思わないのだが、不思議と違う役者だったらどう演技するのだろうだとか、実際はどんな事件だったのかなど気になってしまうあたり、私は無意識にこの映画の虜になっているのかもしれない。










試合直前の体力測定で5ポンドオーバーしてしまったマークが兄とともにがむしゃらで減量するシーンはジム欲倍増間違いなし。

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