グラセフやろうぜなんていいだしたのはかれこれ8年前の話だ。まだ中二病が抜け切れてないチンチクリンのクソガキだった頃。何にでも影響されやすかった私はそのゲームに一瞬で魅了された。親が仕事でいない時をねらってやりこんだものだ。マップやキャラクター、セリフや曲など今でも覚えているし、それが今の自分に繋がっていると感じている。そんな大きな影響を与えてくれたGTAの最新作が2013年10月10日発売された。ひと足早く発売されたアメリカではそのクオリティに感動し多くのファンが満点の評価とPS3史上もっともすぐれたゲームという評価を下した。私はまるで中学生の時のように前の晩楽しみで寝れず、買ってからもパッケージをまじまじと見たり子供に戻ったような気分になった。私自身GTAは文化的に優れているアメリカを第三者の視点から風刺したプロパガンダソフトであると考えているが、世間での評価は極悪非道な犯罪者予備軍製造ソフトという認識が高いので、その克服と、興味を持ってもらう目的でレビューしたいと思う。
ゲームタイトルは直訳すれば「車両窃盗」といった意味(よく“偉大なる”と誤訳されるが、Grand Theft=重窃盗という意味であり“偉大なる”という意味は含まない)であるが、シリーズでは車に限らず陸海空の様々な「乗り物」がミッションにフィーチャリングされている。非常に自由度が高いがその内容が生き残るためなら誰彼構わず巻き添えにする事も可能であり、暴力的過ぎるという批判も強いため「暴力・出血表現が含まれている」などの注意喚起シールがほとんどのシリーズのパッケージに貼ってある。
Grand theft autoシリーズは今までに10作品出ており、そのすべてが大ヒットを記録しているというモンスターソフトだ。世間では教育上よろしくないゲームとして名を馳せており、神奈川県では危険図書指定もされている。しかしこのゲームはそんな簡単な規制をしてしまうような安直なものではなく、現実を真っ向からとらえたアメリカをカリカチュアライズした文化的作品であると考える。
”バイスシティ”では1986年代のマイアミがモデルだった。中南米から流入する麻薬の中継地点であったマイアミのケバケバしいピンクのネオンや、センスの悪いド派手なファッション(今では逆にサグいが)に身を包む人間たちが織り成すリゾート地のバブルな佇まい。所謂スカーフェイスの世界観だ。
”サンアンドレアス”では1992年のカリフォルニアのロス暴動における危険な空気感がLAの暑苦しさとともにしっかりと作り上げられていた。初の黒人主人公と言うのも衝撃的であった。
そしてイラクやアフガンでの戦争が泥沼化し金融バブルがはじけた2008年のNYを舞台にした”4”。移民がアメリカで夢をつかむことのむずかしさ、暴力の果てにある虚しさなどをリアルさの増した新エンジンに体現化した。
このようにGTAシリーズは常に誰かの視点からアメリカの一部分を抜き取り、痛切に批判している。時に残酷に、時にブラックユーモアたっぷりにバイオレンスという軸を置きながらオープンワールドという肉づけにより我々を魅了する。
今作GTAVは前作から4年ぶりのリリースであり、前作の重苦しいいストーリーからか大きく期待された作品だった。そしてティーザーが公開されて以来世界は徐々に湧きあがることになる。
Rockstar Gamesはグランド・セフト・オートVの開発や宣伝・広報の予算にゲーム史上最高となる2億6500万ドル(約264億円)を費やしており、その数字は映画アバターやアベンジャーズをはるかにしのぐ数。しかしながらその莫大なバジェットを3日でクリアし(三日目の売り上げが約996億円)、エンターテインメント分野における世界的な販売記録を達成した。
海外大手メディアではほとんどが9点を超えるレビューをしておりその勢いは未だとどまることを知らない。
GTAVの開発は過去4年に渡って続けられ、1,000ページの脚本、数ヶ月に及ぶモーションキャプチャーとボイス収録といった作業を経た全てがロサンゼルスに密接に基づいた完全に機能する大都市の再現に関係している。そして、都市はこれまでと同様に作品の主役だと言える。Rockstarの中心人物Dan Houser氏のインタビューで最初に行われた都市の直接的な調査について、一晩中奇妙な人達と外を歩き回ったと述べ、おとり捜査を行っていたFBI捜査官やベテランのマフィア達と対話し、スラングをよく知るストリートギャング達に会う為、刑務所まで訪れたと説明している。
。「ロサンゼルスは20世紀におけるアメリカの欲望の体現だ。住宅、庭、日焼け、僅かにフェイクな全て。それは西部の終わりを示している。一日が終わりまた明日がやってくるが、産業は映画、或いは同じようなまやかしである不動産業。それは過去を逃れてそれ自身を徹底的に再構築しようとする人々からなる。Grand Theft Auto IVがクラシックなニューヨークストーリーだったとすれば、Grand Theft Auto Vはアメリカンドリームの終わりだと言える」。(注:フェイクや“まやかし”の産業という言及は、ブッシュ政権下の財政赤字と景気低迷に伴う金融商品の登場に端を発するサブプライム問題の肥大化とその背景に絡むもので、当時はアメリカにおけるGDPの7割近くを個人消費が占め、中国市場との間に膨大な貿易赤字が発生し、経済そのものが金融工学と金融商品により駆動する状況となっていた。この金融商品は信用を持たないサブプライム層への住宅ローンの貸付を主なターゲットとし、結果住宅バブルが弾けた一方で、ハリウッドは“スラムドッグミリオネア”や“アイアンマン3”といった作品でも顕著なように、インドや中国、アラブ資本が次々と介入し産業が空洞化した。)
マックスペイン3で掲げられていた政府の腐敗、信じられる物は自分だけというリアリズムを今回のGTAVでも生かされている。我々の目に日々写っている物は偽りであり偽善がロスサントスを生き生きとさせる燃料であって、それに翻弄される三人を描くのが今回の大筋となる。外から来た理性と明日を持たないトレバー、ロスサントスに取つかれた中年マイケル、多くの人間に左右されながら大人になるフランクリン三人のズッコケ人間模様を映画の如く楽しめる。
それまでのGTAの主人公は無口で与えられたミッションをただひたすらこなす冷酷な殺人マシーンだった。だからこそただの危険図書指定された残虐ゲームという印象が世間についてしまったのだろう。今回ではマイケルは家族という重荷を背負い大黒柱であるという責任がある事に葛藤するミッドライフクライシスであったり、家族の大切さをエンディングを迎えるにあたって理解するフランクリンは地元のサグい仲間との腐れ縁を切れず、また同時に将来の不安や一生このままでいいのかと葛藤する。トレバーにいたってはその性格の反面センチメンタルな面があり自分の理性のなさや人一倍他人の心境を分かる一番人間らしい怪物なのだ
このようにただのゲームとはいえ、生い立ちや生き方について葛藤し思い悩む主人公がいまだかつてあっただろうか?
今までの主人公と言えば例えば配管工の男が姫を救うためキノコを踏んで亀を倒してハッピーエンドだったり、長官から与えられた任務にただ答えてナパーム弾でベトナムの森を燃やすくらいだ。
これが示唆するものはおそらくビデオゲームインダストリーの成熟期だろう。PS3が発売して6年近く経ち、あらゆるゲームが発売されコンシューマーはネタ切れに追いやられ、ユーザーはもはやビルディングスロマンを追い求めるようなストーリーに飽きはじめてきた。誰がいまさらお城にさらわれた姫を助けてハッピーエンディングになるストーリーを望むというのだ?
PS3に限った話ではなくGTAにおいてももはや10作目ほどということでもはやアメリカもディスり尽くしたみたいなところはある。現実の背景と拮抗しあうリアルな人物描写を求めることによって今までとは全く違う復讐劇が完成したのではないだろうか。
GTAシリーズの魅力の一つとしてゲーム内にあるオブジェクトは現実にあるものばかりを再現しているので、まるで旅行に行ったような気分になるし、これから行く私にとっても小さな下見のようで楽しい。例えば世界的に有名な劇場グローマンズ・チャイニーズ・シアターを再現した“The Oriental”やサンセット大通りに位置するアメリカ初のディスコ“Whisky a Go Go”を再現した“Tequil La-La”、ソルトン湖にほど近い砂漠にそびえるポップなサルベーション・マウンテンを再現したヒッピータウンなどあげればきりがない。
それらをゲーム内のスマートフォンのカメラで撮影して遊ぶなんてこともできて終わるタイミングがホントに分からない。ちなみにインカメあり。
そしてこれまでのファンに嬉しいのは過去作の要素が沢山含まれている事だろう。
例えば3で公衆電話から暗殺を依頼するエルブッロ。彼の名前のついた住宅地エルブッロハイツや(レスターが住む所)、ハリウッド大通りのような所には歴代のキャラクターがまるで映画スターかのように地面に彫られている。その他にも4のパッキーがストレンジャーとして出て来たり、ニコがライフインベーダーに載ってたりとロックスターさすが分かってる。
GTAといえば目玉なのがカーラジオ。選曲は毎回神がかっており、移動の際ラジオを聴くため自然と曲が身に染み、好きな曲の幅がどんどん増えていく。今回もDJにパムグリアだったり、Wavvesで活躍するStephen PopeとNate Williams、DJ Pooh、親日家としても知られる人気プロデューサーFlying Lotusなどかなりサグい面々。フライングロータス手掛けるFly Lo FMがまたすばらしくあのキチガイラッパーtyler,the createrが参加している。なぜかヒップホップ専用チャンネルradio Los santosではないのだが、radio Los santosにはA$AP ROCKYが参加しているので問題ない。カントリーのラジオ、メキシカンなラジオなども充実しておりこれをipodに入れて持ち歩けば普段の生活がGTAなみにワイルドにかつDOPEになることは間違いない。あとなぜか眉毛が印象的なモデルの
カーラ・デルヴィーニュもDJとして参加しているらしい。
また今回はロサンゼルスをベースとしている事もありかなり映画のオマージュが出てくる。ざっと思い当たる映画を挙げてみよう
【ネタ元映画】
ガントレット
シャイニング
2000人の狂人
アナライズミー
プレッジ
コンボイ
ヒート
アンダルシアの犬
ハングオーバー!
マーダーライドショー
グッドフェローズ
サンセット大通り
ミッションインポッシブル
ノーカントリー
ハートブルー
ロックスターが生み出すゲームはプロパガンダ的でありバイオレンスとレッテルを貼るにはもったいない芸術作品だ。アメリカ社会の縮図を狙っているのはもちろん、サブイベントにもビデオゲームからエコノミクスに至るまで、皮肉めいた台詞が山盛りで作品からの乖離を感じさせない。共和党からネオリベラリズム茶化すアニメが未だかつてゲームであっただろうか。
またそこには数々の映画のオマージュがあり世間を風刺しそれを吹き飛ばす武器と乗り物がある。分かるものにはあざ笑う事ができるし、わからない者には日常の鬱憤を晴らすフィールドとなる。
ここまで語り尽くしてきて言いたいことは、ゲームはあんまりやらないからなんて言ってる場合じゃない。今すぐ腎臓を売ってその金でPS3とGTAVをamazonでポチるべし。
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