2013年2月6日水曜日

【映画】ファーストフードネイション

アートワークやCMからしてドキュメンタリーテイストだと思われがちだが、ちゃんとしたストーリー仕立て。
若者からお年寄りまであらゆる層から好評を得ている大手バーガーチェーンが、あるとき外部からの調査で新作バーガーのパテに大腸菌が検出されたとの報告があった。真偽を確かめるため幹部である主人公は精肉工場をボスの命令により視察する。見た限りでは雑菌が混入するような様子もなくクリーンだったが、周囲の口コミ調査により恐るべきことが発覚する。

パテに混入した大腸菌は肉を切る際、ベルトコンベアが速すぎて内臓がうまく捌けず、糞まみれになり肉を汚すが、仕事は流れるように来るので仕方がないと。要は事業のファスト化が注意散漫へとつながり結果として大腸菌混入という形となった。


我々が一つのものを口にする時そのものには多くの人手と大きな金が動いている。例えマクド○ナルドで500円しか払っていなかったとしてもその瞬間500円払った人間が大量にいれば大きな金が動くのは当たり前だ。バーガーが届くまでには、本社が新商品を企画し、卸が牧場と交渉して牛を安く買い、メキシコ人がそれを安月給で捌き、高校生が唾入りのバーガーをレジで売る。
自分で作って自分で売るのであれば当然愛着が湧くし、そのものの価値は自分が一番知っている。
しかしこれだけ多くの人間、人種、金が動くと各々のレスポンシビリティは当然薄くなる。この労働ピラミッド、負のヒエラルキーはあらゆる事態を招き、結果としてそれは誰の責任でもなくなってしまう。そうそれは目先の金にとらわれ続け数字だけみている上の人間が悪いのだ。

メキシコには仕事はない。あっても時給3ドルばかしの安さでいつまでたっても未来はない。コカインを捌くマフィアになれば話は別だが。
しかしアメリカはチャンスの国だ。リスクを冒してでも不法移民となり職を選ばず働けば、大金ではないがメキシコよりは数倍稼げる。だからこそ精肉場のような危険が多い場所であっても誰も文句も言わず働くのだ。終盤、意識の高い大学生たちが(まさかのアヴリルラヴィーン)、企業の腐敗と現状を世間の目にさらすため、牧場の塀を壊して牛を逃がそうとする。しかし目の前にある自由に対してただの一頭も外には出ようとしない。ここにいればほし草は食えるし、安定した暮らしができると思っているからであり、それはメキシコ人と同じことなのだ。そして企業もまた先に起こるリスクには目を向けず目先の効用に満たされている。



途中ブルースウィルスが出ていて驚いたのだが、彼の言葉が非常に深い。

”年に4万人死んでるからといって企業は車の生産を辞めるか?ばっちい菌が混ざろうが焼けば問題ない。そうやっていちいちびくびくしているからアメリカ人はだめなんだ”と。

ダイハードのキャラのまま出演してしまったかのようなワイルドさだったが、言っていることは正しい。それなりの安心がほしければそれなりの金がいるのだ。


最後に主人公が目にしなかった工場の裏の部分、いわゆる屠殺場が映される。足首まで浸る牛の血、けたたましい声を上げながら喉を切られて死んでいく牛、我々が目にしないリアルであり、アルバイトの高校生が望んでいたリアルとはこういうことである。結局リアルを求めるだけなのは富裕層で、リアルを否応なしに目の当たりにするのはベガマンなのだ。我々は現実を見ようとすらしていない。

結局視察を終えた主人公はこれらの事実を理解し、ブルースウィルスの説得も忘れ、新たな商品を苦虫を噛み潰したような顔で発表する。顧客に糞を食わそうが金が入ってくれば構わない、企業とは恐ろしいものである。しかしこれがリアルなのだ。傍観こそ罪だ。

安さ速さの陰に潜む悪は恐るべきものであり頼りになるのは自分の舌だけだ。あらゆるものが手軽になった今再び観るべき映画である。
ちなみに某大手バーガーチェーンとしているが間違いなくあの会社のこと。もはや死にかけのハトから作ったナゲットしか食えないね。

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