2013年12月27日金曜日

【映画】ゼログラビティ







2001年宇宙の旅が公開された1968年からもう40年以上経つ。当時まだ月面着陸すらしていなかった人類にとってその内容は衝撃的なものであった。そして月面着陸してから再び驚くこととなる。なぜならまだ誰も見たことのなかったはずの宇宙をすでにキューブリックは映像化娯楽化していたからだ。驚くべきことは当時まだCGが十分に出来上がってなかった事はおろか電卓すら黎明期の時代。あれらの宇宙の映像は計算尺により人の手で造られたというのだ。
では昨今の科学技術とCGの進化を使い2001年宇宙の旅を再構築し再生させるとどうなるか。
それは2001年宇宙の旅のスタイルを適用しながらも形質的には全く違う新たな宇宙を創造した。キューブリック的にいえばスターチャイルドの誕生である。


ゼログラビティにストーリーはないと言っても過言ではない。一応あるがサンドラブロック扮する博士が宇宙ステーションに新たな技術を埋め込もうとするもソ連の使わなくなった人工衛星が破壊され、その破片が尋常じゃないスピードで移動し破片によってステーションは破壊され宇宙空間に投げ出され漂流してしまうというなくてもあっても変わらないようなもの。キャラクターのバックグラウンドもあるけどないようなもの。キャラクターも二名(エドハリスは声のみの出演)。フィールドは宇宙のみ。
これだけ簡素化しておきながら、どうしたらこんなに世界的に評価される映画が作れるのか。


まず第一にカメラワーク。
トゥモローワールドを見た人なら分かると思うが、主人公が最後の子供を保護して集落から逃げる車のシーン。何度見てもいったいどうやってこれを撮ったんだ?と不思議でしょうがなかった。そのメイキングでそのシーンを確認したが驚くべき手法で撮影していた。
今作ゼログラビティにおいても撮影方法にはかなり凝っているらしく、4096個ものLEDを配置した196枚のパネルで構成された「Light Box」の中に入ったり(液晶に囲まれた箱のようなもの)、12本のワイヤーリグで吊るされた状況、また車の製造工場で使うアームのようなマシーンを人間につけ、宇宙空間に放り出される重力化にある地球で無重力感を見事撮影することに成功した。
また全体を通してカットが少ない。最大で15分シーンが途切れない時もあった。これは通常ならば退屈と感じさせるが、この場合より一層リアルに危機感を感じさせることに成功している。

第二にVFX。
時代は2013年。もはや2001年から12年もたってしまったわけだが当然ながらCG技術の進化は驚くべきものだ。エンドクレジットのCG関係者だけでも300人近くの名前が挙がっていた。あれだけのクオリティを体現するには必要な人数だろう。予告を見るだけでもわかるがホントに宇宙でロケやってんじゃないの?と思うほどにリアルでまるでディスカバリーチャンネルを見ているようだ。途中FPSのように一人称になるシーンもあり、宇宙体験ができる90分を1800円ばかしで味わえると言うべきだろう。ちょうどディズニーランドやユニバーサルスタジオにあるアトラクションのようなものだと想像してもらえればいい。
宇宙の描写やステーションがCGなのは間違いないだろうし、まったくCGには見えなかったのだが、一番驚いたのはさすがにここはセットだろうと思っていたシャトル内のパーツや壁などもCGだったこと。言うならばこの映画でCGじゃないのはサンドラブロックとジョージクルーニーだけ。それを知ってみるだけでも大分面白さが変わるだろう。



冒頭から2001年宇宙の旅を彷彿とさせると多く述べるのには理由がある。
例えば原点回帰の描写。サンドラブロックが危機を逃れ何とかステーション内に入り、宇宙服を脱ぎ疲れで脱力するシーン。身体を丸めまるで胎児のようなポーズをするのだが、おそらく2001年~のラストに主人公が新人類として生まれ変わるというスターチャイルドの描写のオマージュだろうだろう。劇中ライアンは過去の娘を失ったという自己の束縛から解放されるという意味も込められている。また2001年~では黒い石板のようなモノリスが人類を導き木星を指したが、ゼログラビティはジョージクルーニーが導き手の役割をしている。最初から最後までジョージクルーニーは実は宇宙人だったオチなんじゃないだろうかと思うほどに危機的状況にも落ち着いた指示を出しカントリーを聞きながらおしゃべりばかりしている。その様子は神々しさや無機質さすら感じさせ同時にモノリスを思わせた。またキュアロン監督はラストの海のシーンを羊水スープと呼び、40億年前人類が宇宙からの微生物が海に溶けだし進化を経て地上に発つという一連の流れであると同時に再生を意味すると説明した。
2001年もそうだが生命や再生を連想させるメタファーが多くあり、それは海でありまた胎児の姿、へその緒のように身体に巻きつくロープ、水、アニンガの子供(Aningaaq)。それらに気づくことができれば映画をより一層楽しめる。



宇宙からすれば人間なんぞ塵っカスのようなもんで戦争しようが問答しようがお構いなしに冷酷に無表情でただ存在する。冷酷ですら無いのだろうが尋常じゃなく深く恐ろしい。下手なホラーやスプラッタよりも。
それを音でうまく体現できていると思う。無音のシーンが多くあり、そのたび宇宙は無音なんだと毎回気付かされる。またスティーブンプライスによる音楽が秀逸。2001年宇宙の旅ではクラシックを使用し今までの宇宙映画の常識を覆したが、今作では電子音、それも実験音楽的なノイズを多用し、不規則で重苦しく、宇宙の広大さや無表情なイメージを連想させるシーンにあった楽曲を使用。
またフワフワと漂うアイテム達にも遊び心があり、中国のステーションには卓球とピンポン、破滅したISSにはバックスバニーのキャラクターなどともっと目を凝らせば色々ありそうだが3Dだったせいもあり物を非常に捉えにくい!
しかしこれは絶対的に3Dで見るべき作品である。欲を言えばIMAX。

総合的に良いの悪いの?と聞かれればすげえよ!と答える。しかし何度も見たいかといえばそうでもない。衝撃はどうやら一時的なもののようだ。しかし一度は見る価値があるとだけは言っておこう。



最後エンドクレジットに影響を受けた監督みたいな欄にデヴィッドフィンチャーとかある中デルトロの名前が笑

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