世界的にベストセラーかつロングセラーの書物といえば?『聖書』だ。
じゃあもっとも難解な書物は?個人的にはニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』だろう。
ではアメリカンコミックで最も難しいのは?
間違いなくウォッチメンだろう。
何が難しいって、普通アメコミってのはアメリカのどっかでこんなヒーローがドンチャン騒ぎしたらヤバくね~くらいのノリだが、ウォッチメンは現実の世界にヒーローがいた場合彼らがもたらす影響と悲劇を描いているためにある。しかも一番ややこしい時代である世界恐慌からベトナム戦争あたり。バックグラウンドや政策などがわかっていないとこの物語を理解するのは非常に難しい。原作を読んでいても途中で頭が痛くなる(アキラの限定盤並みに分厚いのに中身は攻殻機動隊並みに難しい)。
そんな初っ端から躊躇するような難解なノベル、ウォッチメンだが他のアメコミのルーツでもあるし、ヒューゴー賞を取った唯一のアメリカンノベルとして有名なので是非興味を持ってほしい。
では内容。
自警団ミニッツメンは戦時中、非公式ではあるが犯罪者を軒並み逮捕し活躍していたが、その二世として生まれたウォッチメンはコメディアン(お笑い芸人ではなくバットマン的な命名)の数々の横暴からラブアンドピースを訴える市民に敵対視されヒーロー活動を政府によってマンハッタン以外は禁止令が出される。
それからしばらくして、ウォッチメンのメンバーであり初代から活躍し、ケネディ暗殺にもかかわったコメディアンが何者かにより暗殺される。アホみたいにスピーディで馬力があるやつに自宅警備中にフルボッコにされる(この時点で誰かわかっちゃう)。そこでかつてウォッチメンの一員であったロールシャッハはこれをヒーロー狩りだとみなし、禁止令を無視し独自に調査を始める。はたして犯人は...?(早くて馬力あr)
約三時間の「どうとくのじかん」みたいな映画なのでダイジェストで説明すると、話は大きく二つに分かれており、Dr.マンハッタンっつう原子分解を間違えて自分にしちゃって、結果として神に近付いちゃった青い露出狂が、最強すぎて向かうところ敵なしなのでアメリカはここぞとばかりにマンハッタンを利用する。例えばマンハッタンを使えばベトナム戦争勝てんジャン!ってことで試しに導入したらベトナム人がマンハッタンを神だと勘違いし崇拝しだす。それを知ってビビったソ連はチェゲバラと組んでアメリカを共に叩こうとする。でもマンハッタンは元はといえば人間なので人間的な一面もあり、謎の組織に精神的ダメージを与えられリーブミーアローンして火星でアルティメット座禅する。
一方でロールシャッハは犯人の核心に近づいて、あと一歩ってところで罠にはめられムショ行きになるが、二人のコスプレカップルに救われ犯人を追いつめるみたいな話。
ロールシャッハといえば誰もが知るインクのシミが何に見えるかによってどんな思考を持っているか判断する心理テストのことだが、思うにこれはストーリー全体を通してのロールシャッハなのだろう。
オジマンディアス派のあなた.....多少の犠牲は仕方がない。長期的な目線で解決策なのであれば迷わずそちらを選択。CEOタイプ。
ロールシャッハ派のあなた....世界を敵にしようが自分の正義は決して曲げない。プライド高き一匹狼タイプ。
ナイトオウル派のあなた....一般的な人。世界のどこかで地震が起きようがチェチェン紛争が起きようがテレビの前で傍観しセックスをする。
Dr.マンハッタン派のあなた....神
これは別にスッキリ占いではない。どのキャラクターの視点でエンディングを考えたかによってこの映画の評価自体が変わってくる。本当の正義などないし、正義もまたよどんでいて煌びやかなものではない。正義の反対はまた違う正義というように、ロールシャッハの視点で見ていたからオジマンディアスが敵に見えたが彼もまた正義なのだ。そしてこれが現実でありウォッチメンが現実と絡めている理由はここにあるのだろう。ソ連もアメリカも各々正義だ。しかしいつの時代も勝ったものが正義で負けた者は永遠にその一族、血筋、国すべてを憎まれる結果となる。ウォッチメンでそのスケープゴートに選ばれたのは無敵で無限の力を持つマンハッタンであり、彼もまたそれを理解し火星に帰る。
マンハッタンは神か核だと私は考えていたが、多分超人だろう。ツァラトゥストラでは神は死に、山の頂に賢人の教えをもらいに行く。そしてまた山を降り、人々に神のいない世界、超人という存在の意義を説く。まさにマンハッタンと同じだ。しかしそう考えると疑問なのは神を何よりも愛しキリスト教原理主義みたいな血の気の多いアメリカ人が、神の存在しないウォッチメンを評価するのはいったい全体どういうことなのやら。
でもアメコミのほとんどはベースはユダヤ人だしエルビスもユダヤ人だしあんま気にしてねーのかな実際。
ザックスナイダーが最高傑作と言われるウォッチメンを映像化、それも完ぺきに映像化したことによりサムライミのスパイダーマンに始まるアメコミブームは脱構築の段階にまで歩を進め、もはやムーブメントのサイクルが一巡した感があり、爛熟期を迎えている。さえない青年がアメリカを救って金髪美女を救えば金が入るフィルムはもはや飽きられ、結果としてヒーロー自身の苦悩や単なる金や世界征服目的の為の悪ではない異常快楽犯が敵役となりヒーロー自身も悪事に傾倒させるような一辺倒にはいかないフィルムにまで至った。ウォッチメンはそのすべてを含んだまとめであると言えよう。今再びスパイダーマンを見てみるとどうだろう。まーつまらないというか子供だましというか。我々のニーズももはや真骨頂に達したのだろう。ただ手の付け根から糸出して緑の敵を倒すだけの脳筋映画はもはや売れない。個人的にSPAWNは好きだけどね。
またザックスナイダーの良さはちゃんと血を出してくれる。それもリッターで。どこぞのノーランは強化ガラスに顔を叩きつけようがショットガンで撃ち殺そうが空気銃なの?ってくらい血を出さない。人間は殴れば面膜が裂けて血液が傷を修復するのはもはや生理現象なのであるし映倫の目が怖いのであればアメコミなんて撮る資格はない。ザックスナイダーとロメロはその点ではプロ意識がしっかりあって頼もしい。それも300に続き地味に痛い系物理ショックが多い。囚人の腕をチェーンソーでブったぎったりby仲間、金髪秘書の脱毛済みのふくらはぎに弾丸が貫通したり(地味じゃないか)細かいグロに配慮が行き届いている。すばら。
しかし成熟し切ったアメコミ産業を次はどう料理するのかヲタク監督ザックスナイダーよ。
スーパーマンアイアンマンアベンジャーズ最高!!9/10公開!みてね~!みたいなアメコミ好きにはあまりお勧めできない。アクションよりサスペンス色のが強いし、なによりあんますっきりしないから。よりかはダークナイトとかロードトゥパーディション、ヒストリーオブバイオレンス派の人のが楽しめるだろう。
劇中で使われていた覚えが一切ないが予告のスマッシングパンプキンズ使うあたりハイセンスだとおもいましたまる
あとニクソンの鼻でかすぎ。
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