2013年5月29日水曜日

【映画】ビルカニンガム&ニューヨーク



青い業務用ジャケット(まさにブルーカラーが着る20ドルのやつ)を羽織って、チャリでニューヨーク中を駆け巡り、これぞと思った服装をした人を撮る。それはセレブであろうが一般人であろうがファッショナブルであれば問題ない。彼は金持ちに何ぞ興味がないのだ。
彼の名はビルカニンガム。御歳なんと84歳。アマチュアのカメラマンでニューヨークタイムスのファッションコラムを持っている。彼のストイックさは尋常じゃなく、家は簡素で食べものも安いファストフードに99セントのコーヒー、雨の日も風の日もボロボロになったつぎはぎのポンチョを着てファッショナブルなニューヨーカーのスナップを撮影する。
そのストイックな精神でスナップは50年以上続けられてきた。しかし彼の正体や家族、バックグラウンドやストイックさの秘訣などは今まで謎だった。それを紐解いていくというスタイルのドキュメンタリー。

彼はカーネギー・ホールの階上にある古いスタジオに住んでいる。古くからコンサートホールとして知られマンハッタンのランドマークであり、芸術家たちの巣窟であった。しかし改装工事によりビルを含め住人達は立ち退きを命じられている。ビルが住むスタジオにはキャビネットが所狭しと並べてあり、その中には何十年分というストリートスナップの歴史がすべて捨てずにとってある。パソコンのデータに変えたらミニSD一枚、それも5ギガ位で収まるだろうが彼はあくまでアナログにこだわる。カメラもデジタルではなく未だに手巻きのフィルムカメラだ。
ストイックでアナログ派というと頑固で気難しいじじいというイメージだが、彼は非常に気さくで、よくジョークを飛ばす。それに幸せそうなくしゃくしゃな笑顔でニューヨークタイムスの若手社員をディスりまくる。
彼の活力の源は一体何か。
おそらく子供と同じで新発見の毎日なのだろう。人々は日々新たなファッションに挑戦し町へ繰り出す。もちろんそうでないコピーのような面白みのないファッションがほとんであるが、ごく一部オリジナルのそれもずば抜けたファッショナブルな人間がいる。その埋もれた花を探し出しスナップすることこそが彼が仕事を愛するもっともな理由であり、84歳でチャリをガンガンに漕ぐことができる理由である。それも燃料は99セントのコーヒーだけ。
プラダを着た悪魔でおなじみ、ファッション誌ヴォーグのアメリカ版鬼編集長アナ・ウィンターは、まだ若いころからビルに写真を撮ってもらっており、「ビルのために毎日、服を着るのよ」とまで言う。ここで19歳の頃の写真が映し出されるのだがアナは19歳からずっとボブなのね....。つうか今63歳ってまったく見えんな




「ファッションは、生き抜くための鎧だ。手放せば、文明を捨てたも同然だ」
これはビルの言葉であるが的を射ていると思う。ファッションはいつだってその時代のカルチャーを反映させてきた。ベトナム戦争時代のミリタリージャケットにラブアンドピースをあしらったり、戦後無駄が許された50年代にはエッジの利いたフォルムのワンピースが流行ったりとたかがファッションされどファッションだ。今自分は鎧を着て戦っているか?と思い返せば一概にうなずくことはできない。恥ずかしながらパーソナリティのないスタイルだ。しかし最近の原宿系であったりゴスロリもまた良いとは言えないだろう。ファッションにおいても中庸の妙は存在するであろうから。


感想。
なんだか観ていて途中からビルが神様かなんかに見えてきた。あくまで彼の前では誰もがフェア。金をかけたセレブが私を撮ってと言ってもそれがビルのアンテナに反応しなければ無視するだけ。逆に労働者やマイノリティであってもその着こなしが優れたものであればビルのフィルムに収まるのは間違いない。実際インタビューで信仰についての質問について彼は今までのテンポと打って変わって押し黙ってしまう。ホントに彼は神様なのかも。
信仰に関してはここでは詳しく述べていないので何とも言えないが、戦争の経験や、女性に今まで一度も興味を持ったことがないことやいつも一人ということからみて、彼の支えは神。神の存在が彼をファッションに夢中にさせる余裕を生み出す。


ファッションから学ぶ事はファッションの中に限らず、ライフスタイルであったり、生きる活力にリンクするということ。また報道のあるべき姿であったり、ムダをしない事に関しても、彼からとても学ぶ事が多かった
二時間ほどのドキュメンタリーで落ちも感動もないが、そのまっすぐな姿勢に感動する。長さを全く感じさせない道徳的作品。

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