2013年5月22日水曜日

【映画】ハッシュパピー バスタブ島の少女

BEASTS OF THE SOUTHERN WILDが原題。こっちのが内容を的確に表しててよくねえかぁ?まあでも日本人は長い英文は読む気が失せて読まないからね。
こちらの映画、アカデミー賞4部門ノミネート。おまけになんと文科省選定映画だそうな。
→教育上価値が高く、学校教育又は社会教育に広く利用されることが適当と認められるものを選定し、あわせて教育に利用される映像作品等の質的向上に寄与するために、教育映像等審査規程に基づいて映像作品等の審査を行っています。
要はどうとく的によろしい内容だから見るべしとお国が言ってるわけだ。
他に選ばれた作品を見てみると大地震だ逃げろだとかよもぎだんごぺったんだとか正倉院だとか図書館でじじいか親子連れがチョイスして観ているかのような作品ばかり。
そんな教養のための子供のための日本の未来のための素晴らしい映画かと聞かれればそうでもない。後半部分は合ってるが前半は100パーセント同意できない。なぜならあまりにも現実的で残酷な原題が抱える問題をクリアに映しているから。



やがて温暖化により水没してしまうと言われている島、バスタブ島。ハッシュパピーはそこに父親と住んでいた。ある時嵐が来て村のほとんどが水没、村人は逃げだし、残った人間はわずか。おまけに父ちゃんは心臓の病気でぶっ倒れ、さらには国の管理局のお役人が立ち退き命令を出す。

少女ハッシュパピーはまだ六歳。六歳にしてサバイバルの術を父親に叩きこまれ、死を目の当たりにし、現実と一人で戦う。それはまるで通過儀礼を思わせる。人は誰でも成人になる際に今まで子供として守られていた共同体を出て、たった一人で過酷な世界と対峙しなければならない。アボリジニの少年はたった一人で砂漠を放浪し、マサイ族はライオンを狩り子供の殻を捨ててイニシエーションする。それは遥か昔から続き、近代以降では兵役、現代では就活がそれに当たるだろう。しかし現代において死ぬことはまずない。自分を否定されたと感じ自殺してしまうパターンはあるだろうが、命を犠牲にするような通過儀礼ではない。その甘えこそが現代に様々な問題を生む原因だ。別にシャチ狩りをしろというわけではないが、いつからか我々はin to the wildすることを忘れてしまった。
しかしハッシュパピーはこんな舐め腐った、なよなよの現代にまるでハンナのごとく強く生きる(殺人マシーンではない)。それゆえに彼女は六歳とは思えないほど世界の仕組みを理解する。
例えばラストシーンでのセリフ。
私は世界のちいさなかけら。でもそれくらいでちょうどいい。
これはおそらくフラクタルのことであり、石油コンビナートを目の前にし氷河がとけて水面が上昇しているのを生きていく上で感じ取った一言。授業では教えてもらえない教養だ。

ハッシュパピーはあまりバックグラウンドであったり説明がない。場所はアメリカ南部の島で、あたりは湿地帯で、目前には石油コンビナートが並ぶ。父親が「世界で最も美しい眺めをブチ壊したがって」と嘆くことから、おそらく彼らは石油会社の採掘拡大のために立ち退きを命じられているのだろう。ルイジアナ南部の湿地消失量の約10%は,メキシコ湾沿海部における石油やガス探査や採掘用の人口運河ネットワークの開削に起因すると推定されていることからこの場所が選ばれたと考えられる。
今は存在しないオーロックスを出すところや全体的に幻想的な映し方からしてハッシュパピーがまだ子供で、現実をおとぎ話とリアルの半々で見ているということなのだろうが、では果たしてオーロックスは劇中で何を表すのか。オーロックスとは太古の昔人々が恐れていたイノシシのような獣。
巨大で立ち向かうことが困難だが、人々は知恵を使って勝つ。
現代において、おそらくそれは現実。彼女にはまだ仮想の生物、それも醜く仲間同士で食い合うようなものだが、我々にとってそれは過酷な現実のことだ。しかし彼女は家族を守るという使命感や責任感によって獣を追い払う。その姿、顔立ちはもはや少女ではない。オーロックスに対峙する前にハッシュパピーは母に会う。母とは顔を合わせた事がなく父の話でしか聞いたことがなかった。母は美しさのあまり湯はすぐ煮え立ち、ワニをショットガンで撃ち殺してから揚げにするようなワイルドさを兼ね持つ母ちゃんだったと。シュワルツェネガーミタイナカアチャンダネ。その父の話をずっと覚えていたハッシュパピーは母に会いに行き、ワニの唐揚げを作ってもらって病床の父に食べさせる。正直このシーンどっからどこまでが幻想なのかわからないが、とりあえず父はワニ食って死ぬ。父との死別も経験しハッシュパピーはもはや完全なる大人になった。
ハッシュパピーという小さな女の子の成長が世界をも揺れ動かす、そんな風に感じた。


話はとてもすばらしい。現実的でありながらも絵本のように丁寧に包み、それでいて力強いメッセージを感じた。しかし途中でだれる。監督がまだ無名で脚本がうまく映像化できていないのかもしれないが、少し時間を気にする隙ができてしまった。淡々と湿地帯の人々の暮らしを映しすぎたのと、ストーリーラインをうまく客につかめさせなかったのが原因だろう。途中お偉い達の会議のシーンとかを挟んで対比させたりしたら分かりやすくてエッジが出たかもしれない。
オープニングのお祭り騒ぎからのタイトルの出し方はタイミングといい色彩といいパーフェクトあの興奮を持続させることができれば満点だった。
ちなみにハッシュパピー役の女の子はリアーナ似の美人。






観終わって感じたこと
石油はいつの時代も悪だね!!






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